まるしか Photo & Art Blog

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新・北斎展の感想@森アーツセンターギャラリー

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こんにちは、maru-shikakuです。

 

2019年冬の美術展は、新・北斎展で決まりです。

というのも、北斎の全生涯の作品を取り上げた過去最大の大回顧展だからです!

 

これは前代未聞ですよー。

超有名な『神奈川沖浪裏』を始めとする富嶽三十六景なんて、

たった3年間で生み出された作品ですからね。

準備期間はもっと長いけど。

 

北斎の画業人生は70年。あと67年分の膨大な作品がある。

 

本展示は約480点あるそうです。めちゃくちゃ多い。

さらに東京ではこの展示が最後のチャンスの作品も多い。

 

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新・北斎展チラシより(撮影)

 

北斎は一生のうちに5回の改名をしました。それと93回の引越し。

北斎という名はそのうちの一つに過ぎなくて、

 

  • 春朗 → 宗理 → 葛飾北斎 → 泰斗 → 為一(いいつ) → 画狂老人卍

 

こんな感じで名前を変えてます。最後なんだこれ。笑

 

改名をするたびに画風が少しずつ変わってます。

この展示会の副題が「HOKUSAI UPDATED」

「進化する北斎」という感じでしょうか。

 

どう変化したのか?を考えながら鑑賞すると楽しいですよ!

それでは概要の後に感想をどうぞ!

 

 

開催概要

公式HPより

会期:2019年1月17日(木)〜3月24日(日)

※会期中展示替えがあります。

 

休館日:1月29日(火)、2月19日(火)、2月20日(水)、3月5日(火)

 

開館時間:10:00~20:00(最終入館 19:30)

※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)

 

会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)

 

料金:

一般 1,600円

高大生 1,300円

小中学生 600円

※表示料金はすべて消費税込
※限定チケット等については展覧会ホームページをご覧ください。
※未就学児無料
※団体料金(一般1,400円、高大生1,100円、小中学生500円)は15名以上(添乗員は1名まで無料)
※障がい者手帳をお持ちの方とその介助者(1名まで)は、当日料金の半額となります。ご入館の際に、チケットカウンターにて障がい者手帳をご提示ください。特別当日券は対象外です。
※混雑時はチケットのご購入、引き換え、入場までに待ち時間が発生する場合があります。
※入館、利用に関する諸規則の遵守をお願いいたします。「ご入館にあたってのお願い」をご一読ください。

お知らせ
2018年1月31日をもって鳥居坂駐車場は廃止となります。
2018年2月1日以降、駐車場のご利用はできませんので、あらかじめご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。

・東京シティビュー、森美術館への15名様以上のグループは、ご利用日の3ヵ月~前日の20:00まで、ご予約を承っております。ご予約申込書をダウンロードし、FAXにてお申し込みください。
・森アーツセンターギャラリーは、東京シティビュー 団体予約センター(03-6406-6771)までお問い合わせください。

出典:

https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/hokusai/index.html

https://art-view.roppongihills.com/jp/info/index.html#tickets

 

音声ガイドは貫地谷しおりさんと神田松之丞さん。

神田さんは存じませんでしたが、落語界で一番勢いのある講談師のようですね。

550円(税込)です。

 

アクセス

このブログでは森アーツセンターギャラリーの紹介は初めてなので、アクセス説明をします。

東京メトロ日比谷線六本木駅 1c出口から、

エスカレーターを登って六本木ヒルズに到着したら、

 

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今回現地の様子は全てiPhoneにて撮影

でかい蜘蛛のオブジェを通り抜けます。

 

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奥にあるガラス張りのドームが入り口。

 

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螺旋階段を登ればチケット売り場です。

 

上階の森美術館と間違えないでください。

北斎展と言えばわかってくれるはずです。

 

補足:作品の展示期間について

作品は会期のどの日も見られるものと、期間限定で見られるものがあります。

図録に見たことのない作品があって気づきました。

 

なのでどうしても見たい作品があるなら、公式HPで展示期間をチェックしておくといいでしょう。

一応、この記事に掲載する作品で期間限定ものがあったら、展示期間を明示しておきますね。

 

混雑具合

1月27日(日)午後2:00ごろに行きました。

日曜のこの時間、やっぱり混みますね・・・

しかも上野の美術館の感覚で行くと大間違い。

 

まず、エレベータで20分待ち、52階で降りて展示会入り口まで20分。

入るまで計40分かかりました・・・^^;

平日はそうでもないらしいですが、土日はこんな感じです。

 

公式ツイッターを見る限りでは、17:00ごろから空き始めるようです。

夜は+500円で屋上に行けば絶景のナイトビューが楽しめるので、可能なら遅めに観に行くのがbetterでしょう。

 

www.maru-shikaku.net

参考に撮影記事を置きます。この時期、防寒着はしっかり。

 

鑑賞の仕方のおすすめ:小品は諦める

この展示、サイズが小さい作品が多いです。 

そういう展示でありがちな、お客さんが列をなして進みが超遅い

混雑の原因です。

 

やっぱり一番最初の作品が一番混んでるんですけど、北斎の最初期の作品て大したことないのでわたしはすっ飛ばしました。

研究者に怒られそうな発言・・・

 

目を凝らさないといけない小さな作品はもう諦めちゃって、大きなものを集中的に観るのをおすすめします。

それでも観終わるのに1時間弱かかりました。

あとは図録を買って、本で見てください。

 

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デザインかっちょいいですよ。

展示期間限定作品も全て網羅してます。北斎好きなら図録はゲットすべし!

 

感想

画業初期から光る構図のセンス

北斎は20歳で浮世絵師としてデビューします。

20〜35歳に名乗っていた「春朗」の時代は、さっきも書いたようにあまり個性的じゃありません。

 

それでも、いいなと思う作品が一つだけありました。

 

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『鍾馗図(しょうきず)』島根県立美術館(永田コレクション)(図録撮影)

 展示期間:1月17日(木)〜1月28日(月)

 

力強い線の勢いとまっすぐに逆立てた剣がいい。

このように初期作品からも構図のセンスに光るものがあります。

 

ただ、センスが際立つようになるのは次の名前「宗理」時代の作品からです。

 

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『「風流無くてなゞくせ」遠眼鏡』リー・ダークス・コレクション(図録撮影)

展示期間:1月30日(水)〜2月18日(月) 

 

この作品は鑑賞時現物がなくて図録で見つけたものの一つです。いいと思ったら図録からでも引っ張り出して感想を書きます。笑

 

『「風流無くてなゞくせ」遠眼鏡』は、傘の切り取り方、角度が計算されて描かれてますね。

例えば、目線は傘から傘の柄(え)へ降りてきて、遠眼鏡に移るように流れを誘導しています。

 

この絵でよくわかると思いますが、北斎の絵の特徴としては、斜めの線を効果的に使って動きを出してます。

 

つい先日まで展示会が開催されていたルーベンスも、斜め線を絵に取り入れて迫力を出してましたよね。

 

www.maru-shikaku.net

 

こういう線が見えてくると絵画鑑賞は楽しいですよ!

 

体のラインの描き方も秀逸

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『あづま与五郎の残雪・伊達与作せきの小万夕照』島根県立美術館(永田コレクション)(図録撮影)

 

北斎は体のラインのS字カーブをうまく描きますね。

着物もラインを強調させる道具として使ってます。

 

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『夜鷹図』細見美術館(図録撮影。一枚目左。二枚目 拡大図)

宗理時代で好きになったのが『夜鷹図』です。

一発で気に入りました!

 

脚をクロスさせて体を弓のように反らせるポーズはなんだかギリシャ彫刻のようですね。

 

背中のストンと落ちた帯、斜めに抱えた傘がいいアクセントになってます。

 

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『酔余美人図』公益財団法人 氏家浮世絵コレクション(図録撮影)

3番目の名前・北斎時代の傑作ですね。

この絵は題材がまず好き。当然体のライン、そして色もいい。

 

北斎時代は46〜50歳頃。前の2つの時代もセンスがあったのですが、比べると技術レベルがあがってるのがわかります。

 

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『花魁図(画稿)』島根県立美術館(永田コレクション)(図録撮影)

泰斗時代の作品。これなんか、イラスト画のお手本のような作品ですね。

首を45°の角度で振り向かせる発想がすごい。

 

それにしても、なぜ体のラインが綺麗なのか?

 

北斎のエピソードでこんな文を見つけました。

北斎は「人物を書くには骨格を知らなければ真実とは成り得ない。」とし、接骨家・名倉弥次兵衛のもとに弟子入りして、接骨術や筋骨の解剖学をきわめ、やっと人体を描く本当の方法がわかったと語った。

 wikipediaより

 

接骨のプロに教わっていたとは!

絵の上達に限らず、知識の吸収も貪欲だったようです。

 

北斎漫画は大真面目です。誇張表現の理由

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左:『鳥羽絵集 身づくろい』ベルギー王立美術歴史博物館

右:『鳥羽絵集 久米仙人』 島根県立美術館(永田コレクション)(図録撮影)

左の絵がベルギーの博物館にあるのかと思うと面白いですよね。

 

北斎時代から、アニメっぽい大げさな動作を取り入れてます

泰斗時代には、「北斎漫画」という絵手本を出版しますが、これもまた大げさ。

 

顔を横にびろ〜んと広げたり、鼻息でロウソクの火を消す絵が有名ですよね。

 

※北斎漫画とは?

直弟子、孫弟子合わせて200人以上の超人気絵師となった北斎が、いちいち教えるのも面倒くさいからこれで勉強しろ、という理由で作製したのが「北斎漫画」です。

いわば、絵の教科書。

 

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『略画早指南』島根県立美術館(永田コレクション)(図録撮影)

コンパスを使ってプロポーションを取る実例を書いたページ。

他にも、「く」とか「し」、「の」などひらがなの形を崩して絵を描く方法も載ってます。

 

話を戻して、なぜ誇張表現をするのか?

 

それは、風景画に描かれるような小さいサイズでも、何をやってるのかパッと見でわかってもらうため。

 

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『富嶽三十六景 江都駿河町三井見世略圖』(wikipediaより)

※富嶽三十六景シリーズはほとんどが展示されてますが、期間限定の作品もあります。

風景画では、風景の広大さを伝えるために人間は基本的に小さく描かれます。

小さくても、どういう動きをしているのかが一目でわかるように描くのがセオリーです。

 

これはもう、日本でもヨーロッパでも一緒です。だからか北斎漫画は世界的に有名です。

 

上の絵だと小さくても荷物を下に投げ下ろしてるな、というのはすぐわかります。

腕が重ならないように位置が配慮してありますが、実際このポーズをすると右肩が上がりすぎてて不自然です。

 

でも2次元の絵としては、この格好がわかりやすいということになります。

 

そのための誇張表現、そして富嶽三十六景シリーズに生かされているんですね。

 

『江都駿河町三井見世略圖』は富士の三角形と屋根、タコ糸の角度、そしてタコの尻尾?が富士山に向かって垂れるなど、計算がすごくて形を探すだけで楽しい絵です。

 

『神奈川沖浪裏』の版画制作過程からわかったこと

富嶽三十六景といえば、やっぱりこの絵でしょう。

 

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『富嶽三十六景 神奈川沖波裏』(wikipediaより)

2月18日(月)まで日本浮世絵博物館の作品、2月21日(木)から島根県立美術館(新庄コレクション)の作品が展示されます。図録で見る限りビミョーに違います。

 

『神奈川沖波裏』の版画制作過程が展示してあり、とっても面白かったです。

まず波の青色を刷って、次に船の色、人、空と版を重ねて、色を増やしていくわけなんですが、

  • 富士山の背景にある黒いアクセントがあるとないとで全然ちがう!

ちょっと黒いのがいいことに気づきました。ピンポイントに目が富士山に行きます。

だいたい、超大時化なのに空がのほほんとしてるんですよね。

まだまだ見どころがありそうな奥深い絵です。ほんと。

 

ちなみについ最近、北斎の波の再現に成功したというニュースがありました。

“巨大波”の謎解明に近づく ー 偶然再現できた北斎『神奈川沖浪裏』がヒントに

 

完全に一致してますね!『神奈川沖浪裏』出版から200年後の今、ようやく実物を再現できるようになりました。

 

水の表現は世界一

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『富嶽三十六景 隠田の水車』島根県立美術館(新庄コレクション)(図録撮影)

こんな水の描き方ってあります?

 

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『鯉亀図』埼玉県立歴史と民俗の博物館(図録撮影)

展示期間:2月21日(木)〜

線6本と濃淡を変えるだけで、水の中を表現してしまった。

 

北斎は水の表現に関しては世界一じゃないか?と密かに思ってます。

よっぽど水面を眺めるのが好きだったんでしょうね。どれだけ観察したら水を自由自在に表現できるのか、想像できません。

 

晩年の急激な作風変化の意図は?

晩年の画狂老人卍時代になると版画の作製数はグッと減って肉筆画が急増します。

※肉筆画とは絵の具で描いた絵。浮世絵ではあるのですが、版画と区別するための呼び名です。

 

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左:『雨中の虎図』太田記念美術館

右:『雲龍図』ギメ美術館(図録撮影)

有名な『雲龍図』ほか、鬼や龍など想像上の生物を描いた作品も良かったのですが、

 

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『向日葵図』シンシナティ美術館(図録撮影)

日本初公開となる『向日葵図』が一番良かった!

 

北斎の晩年は、究極に簡素なテーマを描いた作品が多いです。

 

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『雀とはさみ図』島根県立美術館(永田コレクション)(wikipediaより)
展示終了
こういう絵を描く心理を考えてみると、もはや北斎の興味は絵に潜むバランス感しかないのかなと思いました。
 
線と色があって、画面にちょうどよく収まっていればそれでいい。
 
行き着くところまできたという印象です。
本人としてはまだまだ絵が下手だと嘆いていたそうですけどね。
 
話を戻して、『向日葵図』。
 
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普通、上向きで元気な向日葵か、枯れかけで下向きの哀愁漂う向日葵か、どっちかを描きそうなもんです。
ところがそのどちらでもなく、中途半端に傾いてます。
 
けれど、向日葵の頭の重みがちょうどいい具合に感じられませんか?
 
これよりシャキッとしてもダメだし、傾いてもダメな気がします。
ベストバランスなのが良かったですね。
 
そしてこの絵はなんだか、晩年の北斎そのものを表しているように思えます。
 
歳をとって力が抜け、自然体で絵を描けるようになりつつある心境が出てきたのかなと感じました。
 

最後に

新・北斎展は、北斎の魅力が120%あふれてます。
過去最大の大回顧展で新たな北斎の魅力を再発見できるはずなので、浮世絵の美術展に行ったことのない方もこれを機に行ってみてはどうでしょう?
 
フェルメール展の感想もどうぞ。