こんにちは、maru-shikakuです。
印象派が絵画の歴史に絶大なインパクトを与えるほんの数十年前、イギリスを中心にラファエル前派という芸術運動があったこと、知ってました?
わたしは知りませんでした。そもそもイギリス絵画は、有名な風景画家ターナーさんの他はほとんど誰も知らない^^;; あとはゲインズボローぐらいか。
そんな人が多いのでは?
依然として印象派が圧倒的に有名な中、東京駅近くの三菱一号館美術館で、ラファエル前派の軌跡展が開催されています。
実は4/23から始まる『クリムト展』(東京都美術館)や、
4/24から始まる『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』展(国立新美術館)
で取り扱われる象徴主義の前身が、ラファエル前派なのです!
つまり上の2つの展示の予習になるんです!
・・・という情報を後から知りました。単純に、
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ『魔性のビーナス』ラッセル=コーツ美術館蔵 会場にて撮影
この絵の配色、いいな。くらいの気持ちで行きました(^^;;
むしろ、何も考えずそれくらいの気持ちで行くと楽しめます。
ラファエル前派というのは配色が最大の特徴だと思いますので。
それと上の写真もそうですが、撮影OKの部屋があります!
これが美術展のスタンダードになればいいな。
それでは、感想に移ります。
概要
会期:2019年3月14日(木)~6月9日(日)
開館時間:10:00〜18:00
※入館は閉館の30分前まで(祝日を除く金曜、第2水曜、6月3日~7日は21:00まで)
4月27日(土)~5月6日(月・祝)は、10:00〜18:00まで開館します。※最終入館は17:30まで※5月3日(金・祝)の開館時間は18:00までです。ご注意ください。
4月6日(土)は、開館9周年のため、21:00まで開館します。※詳しくはこちらをご覧ください。
休館日:月曜日(但し、4月29日、5月6日、6月3日と、トークフリーデーの3月25日、5月27日は開館)
トークフリーデーは声の大きさを気にせず鑑賞できる日です。詳しくはこちら。
出典:https://mimt.jp/ppr/outline.html
混雑具合
3/31(日) 14:00頃に鑑賞しました。ラファエル前派の知名度のせいか、お客さんはぼちぼちといったところ。ゆったり回れますし、撮影ルームも待ちがなく撮影できます。
ただし、大型連休あたりは混雑に注意です。
撮影できるところ
なんども書いている通り、撮影ルームの中のみ撮影ができます。
それと展示終盤にもボックス型の記念撮影ブースがあります。
背景のレンガが映えますよね。絵の雰囲気に合います。
ちなみにホームズからの挑戦状という謎解きが館内にいくつか設置されてます。この写真はその一部。
絵画鑑賞しながらクイズを解くのもいいですね。
感想
間違いなくきっかけはターナー
展示の始まりに子供向けのチラシ・ジュニアブックレットが置いてあります。こういうのは子供大人関係なく、めちゃくちゃわかりやすく解説してあるので、必ずもらっておきましょう。
ラファエル前派というのは大きな運動とはならなかったんです。小規模な同盟で長くは続きませんでした。
以下、説明しますと・・・
長年美術界はラファエロ(ラファエルは英語読み)を最高の画家としてきました。
ラファエロ・サンティ『ベルヴェデーレの聖母』美術史美術館(ウィーン)蔵 wikipediaより
この絵で有名ですね。
しかし、調和のとれた画風がもう退屈だし、時代遅れなんじゃないの?という不満を持った3人の画家ハント、ロセッティ、ミレイが立ち上がり同盟を組みました。
ジュニアブックレットを撮影
ここで重要なのがパトロンです。お金がなくちゃ絵が描けません。お金は超大事です。
※ゴッホだって、貧乏画家と言われてますけど、道具代を除けば普通に生活できる額を弟から仕送りしてもらってるんです。贅沢に絵の具を使う画風でなおさらコストがかさんだのも不幸でした。とにかく絵画はお金がかかります。
それが美術史家のジョン・ラスキンというお方。
美術評論家として名を上げた方で、文学的影響力も大きく、wikiによるとトルストイ、夏目漱石、プルースト、ガンディーに影響を与えたという。
ラスキンは1858年から、ある裕福なアイルランド人家庭の子供たちに美術を教えていたが、その中のひとり、9歳のローズに魅了される。ローズが18歳まで家庭教師を続けたが、彼女が16歳になると、何度も結婚を申し込んだ。しかし、宗教が違うことを理由に断られる。1875年にローズが27歳で急死したことが伝えられると、ラスキンは精神的に強いダメージを受け、しばしば発作に見舞われるようになった。亡くなったローズと会話するために、スピリチュアリズムの研究も始めた。
wikipediaより
なかなか濃ゆいエピソードをお持ちです。
ラスキンはターナー大好きな資産家です。「自然に忠実たれ」と言いながら自然を抽象的に表現したターナーが好きという矛盾。
ラスキンにとっての忠実とは、そのままを描くのではなく本質を掴むという意味なのかもしれませんね。
本展もテーマから外れますが、ターナーの絵が数点、展示されています。
特にこの絵は傑作でした。この絵をみるだけに来てもいいくらいです。
夕日が沈みかける砂浜と海を描いた絵なんですが、砂浜と海の境界がない。
相変わらず色が綺麗すぎますね。それだけでずっと見てられます。
画像では分かりにくいかもしれないんで、やっぱり実物を見るべきです。
逆に夕日と空の色の境界ははっきりしてます。
夕日の色の形を見ると逆三角形です。沈む動きを表現しているのかなと思うと、とても面白い絵です。
さて、そんなターナーが好きな方が応援するのだから、やっぱり今までにない絵画を描く人たちですよね。
ロセッティ、ミレイの配色がいい
再びロセッティの『魔性のビーナス』。アレクサ・ワイルディングという方がモデルだそうです。
ちなみに会場の最後で展示品の選挙をやってます。この作品は第2位。1位は後ほど説明しますね。
この作品をぱっとみて目を引くのが、赤と緑のコントラスト。これがロセッティの特徴です。
そしてかなり鮮やか。色のコントラストと高彩度がラファエロとは違うところ。
どっちかというと赤が彼の好みっぽいです。
もう少し作品を見ましょう。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ『窓辺の女性』マンチェスター大学ホイットワース美術館蔵 会場にて撮影
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ『夜が明けて』タリー・ハウス美術館蔵 会場にて撮影
どちらの作品もロセッティの恋人ジェイン・モリスがモデル。独特の眼差しに惚れ込んだそうです。確かに引き寄せられる。
お次はミレイ。ラスキンさんの奥さんをゲットしてしまった方です。
ジョン・エヴァレット・ミレイ『オフィーリア』テート・ブリテン蔵 wikipediaより
この絵は超がつくほど有名。残念ながら来てません。
一度でいいから生で見たい絵の一つです。
ロセッティの赤に対して、ミレイは緑の表現がずば抜けてます。
ジョン・エヴァレット・ミレイ『結婚通知ー捨てられて』個人蔵 会場にて撮影
友達の結婚式の招待状がきた。私は捨てられたんだけどね。という悲しい絵。
女性が美少女過ぎます。女の子描くのが得意な人は、どの時代でも通用する容姿で描きますよね。
背景のモスグリーンが控えめですが綺麗。
ミレイはもう少し数を見たかったですね。
ラファエル前派周辺の画家も侮れない
ラファエル前派は派閥に入ってない画家へも影響力がありました。
といっても、印象派とかと違ってイメージがぼやけてるんで、これぞラファエル前派!という象徴的な作品は少なく、個々で色々解釈してます。
ちょっと色彩の使い方が大人しくない19世紀中頃のイギリス絵画は、大体ラファエル前派の影響を受けてるものだと思ってもらえたら正解です。
女の子が入ってたら確定。笑
フレデリック・レイトン『母と子(サクランボ)』ブラックバーン美術館蔵 図録を撮影
会場選挙で第1位の作品です。白い服の女の子はやはり強い。
絨毯の濃ゆい色彩がラファエル前派的。
それと、後ろのツルの屏風ですが、この頃イギリスで日本装飾芸術が注目されています。これはラファエル前派にも確実に影響を与えています。詳しくは後ほど。
ウィリアム・ダイス『アラン島の風景』アバディーン美術館蔵 図録を撮影
まるでポラロイドカメラで撮ったかのような配色。
やはり表現としての色の使い方がちょっと違う。
アーサー・ヒューズ『音楽会』リヴァプール国立美術館蔵 図録を撮影
『不思議の国のアリス』の作者ルイス・キャロルが絶賛した作品。
わたしも配色が好きです。
アーサー・ヒューズ『マドレーヌ』タリー・ハウス美術館蔵 図録を撮影
こちらは上の『音楽会』のデッサンをちょっと変えて作品にした絵です。
背景のモスグリーンはこれぞラファエル前派です。
・・・と、ここまで見てきて考えたことがまとまりました。
ラファエル前派とは、補色(赤と緑限定)を効果的に表現に使い始めた運動なのかなと思います。
補色とは赤と緑の他に、オレンジと青が代表的ですね。反対色とも言います。
歴史ではこの後、印象派が現れます。
ラファエル前派は単純に使う色を絞っただけですが、印象派は陰影を補色の色彩に置き換えました。つまり影が暗い色じゃなくなったところが革命です。
(青とか緑とか後退色と言われる色)
印象派ほどの革命ではありませんが、歴史上の小さな転換点として、ラファエル前派は価値があったのでしょう。
『日没の種蒔く人』クレラー・ミュラー美術館蔵 wikipediaより
ゴッホはオレンジ(黄色)と青を多用したことで有名ですよね。
最終的にデザインに落ち着く
ラファエル前派は第二世代になると、もはや赤と緑の色だけをフォーカスして、デザインの方面に発展します。上の方で書いた、日本装飾芸術の影響を受けてます。
エドワード・バーン=ジョーンズとウィリアム・モリスは会社を設立し、壁紙や椅子・ソファ等の家具の販売を始めます。そのデザインは赤と緑を基調としてます。
ジュニアブックレットを撮影
装飾芸術に影響を受けたとはいえ、絵画を捨ててなぜデザインに走ったのかというと、
ジュニアブックレットを撮影
産業革命が起こり、大量生産の商品が流通し、職人の価値が問われていた頃だったからですね。芸術をより生活の一部にすることで生き残りを図ります。
それがアーツ・アンド・クラフツ運動と呼ばれるものだったんですね。
最後に
あまり知らなかったターナー以降のイギリス絵画の歴史を知ることができてよかったです。
本展はその意味で、ラファエル前派のご紹介といったダイジェスト的な展示でした。
特にロセッティやミレイについてはもう少し発掘しがいがありそうですね。再び特集されることを願っています。