【追記】実際に見に行きましたため、大幅に加筆修正しました。
こんにちは、まるしかです。
展示会再開がいいのか悪いのか複雑な中、さっと行ってきました!
実際、最高でした!!
思ってたよりも大きい作品が多く、その迫力に圧倒されます。
こればっかりはネットの小さな画面で見るのとは訳が違う。実物を見たほうがいいです!
この展示の目玉は、ゴッホとフェルメールだなぁと思っていたのですが・・・
見てから思ったのは、正直どれもすごかったということ!
そもそもロンドン・ナショナル・ギャラリーの絵が日本に渡る事自体初だそうです。
レンブラント、ベラスケス、クロード・ロラン、コンスタブル、ターナー、ルノワール、ドガ、モネ、セザンヌ・・・
サッカーでいえば、まさに銀河系軍団⚽️
まさに今年上半期では一番の美術イベントです。
ちょっと前にコートールド美術館展が開催されていましたね。
豆知識ですが、コレクターのコートールドさんの設立した基金で購入したのが、今回観られる予定のゴッホのひまわりです。
前置きはこれくらいにして、以下、展示会の情報、感想と続きます。
開幕前だけど会場ちょこっと公開!
— ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 (@london_2020art) March 19, 2020
すべての章を公開しました✨
展示室の壁には壁紙を貼っていることが多いのですが、 #ロンドン展 東京展は大部分に布を使っているので、ちょっと特別感があります💕 pic.twitter.com/x2QzKAznO0
↑展示会のtwitterは作品紹介が充実しています。こちらは展示の様子。
チケットについて
東京展は日時指定チケットを前もってスマチケ、読売新聞オンラインストア、もしくはファミリーマート各店舗のイープラスでチケットを購入する必要があります。
対象日時:2020.6.23(火)~2020.10.18(日) 9:30-17:30
参考:https://artexhibition.jp/topics/news/20200604-AEJ243245/
チケットはイープラスにてスマチケ(スマホにチケットが入っている)で購入できました。
2週間単位で日時指定券が順に発売されます。発売開始からいい時間帯はすぐ埋まるため、発売開始時間に待ち伏せするとGOOD。
事前にイープラス(クレカ決済のみ)で会員登録しておくのを忘れずに…!
それと決済時にクレカの会員ページのパスワードが求められました。本人認証サービス(3Dセキュア)がセキュリティ対策で働いているようです。
概要
会期:2020年6月18日(木)~10月18日(日)※会期変更
開館時間:9:30~17:30 毎週金・土曜日:9:30~21:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、7月13日(月)、7月27日(月)、8月10日(月・祝)、9月21日(月・祝)は開館)、9月23日(水)
観覧料金:当日(日時指定入場券):一般1,700円、大学生1,100円、高校生700円
日時指定券(本券のみでの入場不可):一般200円、大学生100円、高校生100円
- ※日時指定入場券・日時指定券は6月13日(土)正午より販売(国立西洋美術館での販売なし)。販売対象期間は2020年6月23日(火)~10月18日(日)。
- ※前売券・無料観覧券等をお持ちの方で、入場日時を指定してご入場される場合は、ご希望の入場日時の「日時指定券」をご購入のうえ、前売券・無料観覧券とともに本展会場へお持ちください。「日時指定券」をお持ちでない場合は、当日先着順または会場で配布する整理券によりご案内いたします(整理券の枚数には限りがあり、ご入場いただけない場合がございます)。
- ※東京・春・音楽祭2020 ミュージアム・コンサートセット券(一般のみ)についてはこちら(3/30、3/31)をご覧ください。※臨時休館のため中止
- ※団体料金は20名以上。※販売中止
- ※本展は国立美術館キャンパスメンバーズ制度による割引適用はございません。
- ※中学生以下は無料。
- ※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。「日時指定券」や整理券のご利用は不要です。会場係員にお声がけください。
出典:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020london_gallery.html
混み具合・撮影スポット
平日の午後に見てきました。日時指定制となったからか、展示会場内はそこそこの人出に収まっています。
ただしガラガラというわけではなさそうです。指定入場時間は30分も受けられているのですが、指定時間の最初の方は混む傾向にあります。
例えば14:00入場(14:30最終)の場合だと14時に人が集中します。
入場まで少し待つことも。昨年のフェルメール展ほどではないですけどね〜。
撮影スポットは展示会場入口手前の広場にて。
音声ガイドは古川雄大さんという俳優の方。朝ドラ『エール』で話題の人です。
ちょっとわたしは存じ上げませんでした…
ガイドはマメ知識豊富なのがいいところでした!とても分かりやすく借りる価値があります!
図録について
開催されていると言っても、なかなか都内に行きづらい人もいるかもしれません。
下の感想を見てってください。
それか、外部サイトで図録を購入できます!
現在に限らず過去の展示の公式図録もオンラインで買えてしまう素晴らしいサイトがありました。
開催が延期期間だった頃、待ちきれずにこちらのサイトでロンドン・ナショナル・ギャラリー展の図録を購入しました!
送料がちと高いがしょうがない。
【図録通販のお知らせ】
— ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 (@london_2020art) April 1, 2020
図録通販サイトMARUYODOで、 #ロンドン展 のクリヴェッリ/ターナーバージョンの表紙の図録の取り扱いを開始しました📘
ゴッホ/フェルメールバージョンとミニ図録も販売中です🎨https://t.co/5V7AcOMKfr
↑表紙違いのバージョンが発売されたみたいです。
かなり分厚いです。ミニ図録もありますので良かったらぜひ。
感想
まずはクリヴェッリの大迫力絵画に驚く
カルロ・クリヴェッリ『聖エメディウスを伴う受胎告知』1486年 図録を撮影
入口入ってすぐ目に付くクリヴェッリの傑作は、今回の目玉。
何より驚いたのは207 x 146.7 cmという大きさです。
そこに遠近法による立体感も相まって、迫ってくるものがありました。
装飾がとても細かく、いつまでもみてられる感じです。だいぶ報酬が高かったんでしょうね。相当気合入ってます。
足元の瓜とりんごのアクセントも効いています。
音声ガイドでは画面上の登場人物についての解説が聞けます。
個人的に見て欲しいのは、この絵の額ですね。
壺、草花、ドラゴンの模様が彫られた見事な額はこの絵にぴったりです。
フェルメール『ヴァージナルの前に座る若い女性』の背後
ヨハネス・フェルメール『ヴァージナルの前に座る若い女性』1670-72年頃 図録を撮影
相変わらず綺麗なフェルメール・ブルーでした。
ただ正直他の絵画のレベルがすごくて、フェルメールにしてはやや霞むかな。
どちらかというと絵の意味に価値があると思います。
絵の内容としては、パッと見た感じ、演奏中にふと手を止めただけの場面に見えますよね。しかしその背後に飾られてある絵画の内容がわかると途端に意味深になります。
ディルク・ファン・バビューレン『取り持ち女』1622年頃 ボストン美術館蔵 wikipediaより。※この絵画は展示作品ではありません。
登場人物は左から娼婦、客、仲介の取り持ち女です。
カラヴァッジョに影響を受けた作者だから、だいぶ濃いテイストの作品ですね。
フェルメール作品では全体の雰囲気と合わせるために地味な色合いに隠されていますが、構図はまさしく『取り持ち女』です。
ヴァージナルを弾くこの女性は娼婦?とか、普通じゃない待ち人が来た瞬間?とか、そんな想像が沸き起こる絵画ですね。
フェルメールは意外と官能表現をほのめかすのがお好きなんです。
ヨハネス・フェルメール『ヴァージナルの前に立つ女』1670-72年頃 wikipediaより。※この絵画は展示作品ではありません。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所有するフェルメール作品のもう一つ『ヴァージナルの前に立つ女』。
この絵と比べると、若い女性バージョンは部屋が薄暗くて綺麗じゃないし、ヴァージナルは白いシミだらけだし。比較するとより怪しげな感じが際立ちますね。
なんというか、すっごい微妙なリアクションなんですよね。
「あっ、来た!」というよりは「来たね・・・」って言いそうな。
ちなみに女性の右横にある文字はフェルメールのサイン。Vermeerをアナグラムにしたものです。
表情に乏しいけど微妙な仕草を秘めた女性を描かせたらフェルメールが一番だと思います。この辺も日本人が好む理由の一つかな。ぜひ注目してください!
ヴァン・ダイクからゲインズバラへ。トレンドの変化
アンソニー・ヴァン・ダイク 『レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー』1635年頃 図録を撮影
人物を実物以上に美化するのが得意?な売れっ子肖像画家ヴァン・ダイクの傑作。
ヴァン・ダイクはドレスの絹の滑らかさとか、クルンクルンな髪の毛の艶とか、滑らかなものの描写に関しては、美術史全体においてもレベルが高いなと感心しました。
これは実物を見なければわからないレベルの微妙なところですね。なんとなく違うのです。
トマス・ゲインズバラ『シドンズ夫人』1785年 図録を撮影
当時最高の舞台女優を最高のポートレートに仕上げたゲインズバラの傑作。
彼独特のブルーが混じる衣装と背景の深い赤。色彩と端正な顔立ちの描写が両立する相当にレベルの高い作品です。こんなのがゴロゴロいるからこの展示はすごい。
拡大してみると、衣装の縞模様の描写はかなりラフなんです。
でも、若干崩して書くことで生地の柔らかさが表現できてます。
全体をかっちり描いたヴァン・ダイクに比べて、こういう速描き的な技術が見られるのは時代の変化の証ですね。
風景画もレベルが高い。有名大家からマイナー画家作までどれもかなりの力作
カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)『ヴェネツィア:大運河のレガッタ』1735年頃 図録を撮影
イギリスの資産家の子息が、大学の卒業旅行にイタリアの名所を巡るという流行があったそうです(グランド・ツアー)。
その際にお土産として、カナレットの典型的なヴェネツィア風景画が人気だったとか。
この絵はお祭りでのボートレースの一場面を描いてます。
人を小さくびっしりと書き込み、建築物を壮大に見せるワザ、そして巧みな遠近法。
この2つの技術に優れていたのが人気の秘訣だったのではと思います。
若干景観を見栄えのために歪めて描いたのもご愛嬌?
ヤーコプ・ファン・ロイスダール『城の廃墟と教会のある風景』1665-70年頃 図録を撮影
オランダの大風景画家ロイスダールは前々から好きな画家でしたが、この絵はかなり衝撃的でファンになりました!
煙のように生き生きとした雲も好きだし、光と影を丁寧に配置して遠近感を出す手法は感心させられます。
『城の廃墟と教会のある風景』はロイスダールのそういった特長が遺憾無く発揮されています!
特に遠くにほんのりと光が当たって見える風車の描写が好きです。上の写真ではイマイチ伝わりきれないかもしれません。これはぜひ実物を。
クロード・ロラン(本名クロード・ジュレ)『海港』1644年 図録を撮影
風景画家の地位を築いたクロード・ロラン。
繊細な霞みのかかった夕暮れの空気感が素晴らしい。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー『ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス』1829年 wikipediaより
そのロランを師と仰ぐイギリスの大家ターナーの絵。師にならって夕日をバックにする構図をよく描きますが、作風は師匠とはだいぶ違います。
印象派のように絵の具を生に近い状態でキャンバスに置く感じです。上の絵だと夕日部分に絵の具の盛り上がりがちょっとあります。
それだけじゃなく、海の青い部分をはっきり濃い青で表現したり(夕暮れのオレンジとの対比を強調させる。色の分離)、船の影の部分が明るい赤褐色だったりと、まさしく印象派の先駆けを感じさせる大作ですね。
ジョン・コンスタブル『コルオートン・ホールのレノルズ記念碑』1833-36年 図録を撮影
ターナーのライバル?コンスタブルの隠れた名作、これもすごかった…!
木肌や枝に細長く細かいハイライトが無数にあるおかげで、木の生命力を感じさせます。
このハイライトは白く塗ってるのかなーと思って近寄ってみたら…引っ掻いて削っていたんですね!ぜひ現物で確認を。
フィリップス・ワウウェルマン『鹿狩り』1665年頃 図録を撮影
大家の風景画が並ぶ中で、比較的?マイナーな画家の作品も印象的だった作品がいくつかあります。
上のオランダ画家ワウウェルマンの描く狩りの様子もその一枚。
遠くに向かってなだらかに霞んでいく空気の描き方は、クロード・ロランに肉薄する技術レベルの高さを感じました。
主役の赤い服、中心の木の傾き加減など、工夫が散りばめてあって、見ていて飽きない作品だなあと思いました。
ウィレム・ファン・デ・フェルデ(子)『多くの小型船に囲まれて礼砲を放つオランダの帆船』1661年 図録を撮影
マストの織りなすリズムが見ていて心地よい作品。
ファン・デ・フェルデもオランダの当時人気だった画家だそうです。17世紀のオランダって本当に黄金時代だったのですね〜!
スペインの画家も侮れない
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ『幼い洗礼者聖ヨハネと子羊』1660-65年 図録を撮影
これまでイギリスやオランダ画家のレベルの高さを伝えましたが、スペイン画家のレベルの高さも段違いです。
こちらはムリーリョ作の縦が165cmもある大絵画。ヨハネと子羊が暗闇からまさに浮かび上がるように描写されています。その明暗が見事。
フランシスコ・デ・スルバラン『アンティオキアの聖マルガリータ』1630-34年
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展で一気にファンになったのがこちらのスルバランです!
とにかく色が綺麗。濃い藍色のローブの発色はかなり好きですし、マットでフラットな質感の古典絵画は今の時代に受けるんじゃないかなと思います。
調べてみたら、スルバランという人はカラヴァッジョ的なクッキリした明暗をよく描いたそうです。スカッとした黒の出し方に特長があると思います。
特別展の後はぜひ常設展も同時に見ていただきたいのですが、その大きな理由は、
フランシスコ・デ・スルバラン『聖ドミニクス』1626-27年 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影
7/7に公開になったばかりのスルバラン作品がこれもまた見事だからです。
ちょっと上の写真だと反射しちゃってるのが残念ですね。実際は漆黒のローブが極めて鮮やかで、もうそれだけで見る価値があるのです。
ディエゴ・ベラスケス『マルタとマリアの家のキリスト』1618年頃 図録を撮影
スペイン黄金時代の大家ベラスケスが若かりし頃に描いた秀作。
正直個人的に人物の描き込みはまだまだな感じを受けます。恐ろしくうまいと思ったのはテーブル上の静物。
ちょっと拡大してみます。
魚の光り方、卵の殻の描写が凄まじかったです。
まず物をリアルに描く術が備わっていたからこそ、後々の生命力溢れる人物画が描けたのですね。
印象派の時代は印象派だけではない
イギリスと日本は同じ島国のせいか、好みもなんとなく似ています。
今回の展示で感じたのですが、イギリスにある絵画で、たくさんの人で賑やかな絵ってあんまりないですね。
カナレットは例外ですが、風景を壮大に見せるための記号として人間を描いてます。
一人二人の肖像画もしくは静物画が圧倒的に多い。
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展で展示される19世紀の絵も、やはり静物画のレベルが高かったです。あとで紹介するゴッホのひまわりもその一つですね。
ポール・ゴーガン『花瓶の花』1896年 図録を撮影
黄色をバックに鮮やかな花が美しい作品です。
タヒチ時代、すでにゴーガンの作風を確立した時期の作品にしては、細い線と素直な色彩で描かれていて異質な雰囲気です。
そう思うのと同時に、ルドン作品を彷彿とさせました。
ゴーガンとルドンって交流があったのかなと思って図録を読んだら、結構な仲良しだったようです。
ルドンが黒の時代を抜けて色彩を多用したのは1900年を過ぎてから。となるとゴーガンのこの絵を見て影響を受けたのかなと想像してしまいますね。
アンリ・ファンタン=ラトゥール『ばらの籠』1890年 図録を撮影
ファンタン=ラトゥールは19世紀を生きながら、印象派とは違って落ち着いた花の絵を得意とした画家です。
控えめな色彩と柔らかそうな花びらの描写は心惹かれるものがあります。
展示会のお土産コーナーでもこの絵をモチーフにしたグッズが人気のようでした。
常設展の方では、彼の妻の作品が展示されています。
ヴィクトリア・デュブール(ファンタン=ラトゥール)『花』国立西洋美術館蔵 会場内で撮影
こちらも見ていてとっても癒される絵です。
旦那の作風にかなり似ているため、どれだけ指導が入ったのだろうかと思っちゃいます。
クロード・モネ『睡蓮の池』1899年 図録を撮影
やはり印象派といえばモネ。こちらの絵は睡蓮シリーズの最初期の18点のうちの一つ。
実はその18点の中に箱根のポーラ美術館に所蔵されている『睡蓮の池』があります。
構図もほぼ同じ。
それにまつわる記事はこちらから。
ゴッホ『ひまわり』は枯れかけの花が多い謎を考察
フィンセント・ヴァン・ゴッホ『ひまわり』1888年8月 wikipediaより
展示会のラストはこちらの絵の特設ルームで〆です。
やはりすっきりとしたクリーム色でバランスよくまとめられていて、ゴッホ作品の中でも上位に入る人気なのはうなずけました!
なんというか、ゴッホの癖があまり強くなくて、心地いい絵なんですよね。
それでは以下、ゴッホの『ひわまり』に関する考察です。
1888年2月、ゴッホがパリから静かな南仏アルルに移り住んだ目的は、芸術家の共同体を作ることです。
半世紀前のバルビゾン派の画家たちが出世していったのを受けて、世界的な芸術共同体ブームが19世紀中頃に起きました。
この間のハマスホイ展でも解説があった、デンマークでのスケーイン派もその一つですね。
ゴッホは画家の中でもバルビゾン派のミレーを特に尊敬していたから、意気込みはなかなかのものだったと思われます。
5月にみんなで生活するための家を借りて、そこに飾るためにひまわりの絵をたくさん書こうと思ったらしいです。
ゴッホは驚異的なスピードで、8月のひと月の間に4枚のひまわりを描きあげました。ロンドン・ナショナル・ギャラリーのひまわりは4作目。
ゴッホ自身も、そしてゴッホの借りた家にやってきた唯一の画家・ゴーギャンもひまわりの連作の中でいちばんのお気に入りだったのがこの絵です。
ゴッホはいろいろと背景の色を変えたりして実験していましたが、確かに黄色でまとめたこの作品が繊細で好きです。
背景の色はフェルメールのよく使うイエローに似た素晴らしい黄色で特に好きです!早く現物が見たい・・・
その後も家いっぱいにひまわりを飾るために描きつづけようとしましたが、冬に移るにつれてひまわりが完全に枯れてしまい。
そこでゴッホは4作目のコピーを思いつきます。日本の宝、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(@新宿)に常設展示されているゴッホのひまわりを見てください。
フィンセント・ヴァン・ゴッホ『ひまわり』1888年11月末-12月初旬頃 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 wikipediaより。※この絵画は展示作品ではありません。
ほぼ完コピです。色調はナショナル・ギャラリーのものより濃いめ、筆のタッチも荒いところを変えたのです。
なので、最悪ロンドンのひまわりを見られなくても、新宿に行けば似たようなものは見られます。
ちなみに日本のひまわりはオークション会社クリスティーズで入札されたもの。その日本法人の社長が書かれたオークションの裏側の話が最近本になりました。
『美意識の値段』読了。アートオークションの世界の話が面白いのに加えて名言多くて良書でした。「人を見る眼はモノを見る眼、モノを見る眼は人を見る眼」眼を鍛えなければ。
— まるしか@はてなブログ (@marushikaku4) February 22, 2020
普段アートオークションなんてニュースの世界(最近だとサザビーズのバンクシー事件とか)でしか知らなかったから、裏側を知るだけでとっても面白かったです。
話を戻して・・・再びロンドンのひまわり。この絵の考察です。
なんていうか・・・枯れかけばっかりじゃないですか?
かろうじて元気のある花って、中央一番右のやつぐらいで、あとは花びらが半分抜け落ちてたり、全部なくなってたり。
ひまわりはゴーギャンと仲違いする以前のもの。2人だけど立派な共同体を作る夢を抱いていた頃の作品だから、ポジティブな感情で描かれたはず。
なのに描かれる花の状態があんまり良くないのです。1作目から7作目まで全て。
昨年のゴッホ展では、パリ時代に描いた花の作品がありました(行ったのですが忙しくてまとめられずすみません)。
敬愛する画家・モンティセリの厚塗り技法を真似て描いた作品。その花はどれも生き生きとしていました。
ところがこのひまわりはどうしたのでしょうか。
調べても解答がないので、個人的な見解を書きます。
1つは、管理がいい加減説。でもひまわりって育てやすい花のはず。うーん。
2つ目は、色彩&タッチを考えて説。
フィンセント・ヴァン・ゴッホ『麦刈る男』1889年9月 ゴッホ美術館 wikipediaより。※この絵画は展示作品ではありません。
ゴッホ作品には麦畑が頻出します。
その理由はもちろん農民を描くこともありますが、麦の黄色とオレンジのまとまっている感じが好きなんじゃないかと思うのです。
ゴッホは対比色(赤なら緑、青ならオレンジなど)を好んで使う画家です。
私自身、そのイメージが強かったのですが、同じくらい同系統の色でまとめるのもうまいな、しかも歳を重ねるごとに上手くなっていることに気づきました。
それでいてここぞという時の対比色が、後期の作品ほど冴えてるのです。
色調を考える上で、元気なひまわりだけではバランスが取れていないと考えたではないかと。
実際、枯れたひまわりの濃い色と、壁の淡いクリーム色が良いコントラストを生んでます。
タッチに関しても枯れた後の方が、ゴッホお得意のリズムが作りやすいのではと思います。
この厚塗りもまた色の出方に影響してくるのです。タッチは実物で見るのが一番わかりやすいです!
最後に
だいぶ長くなってしまいました・・・1万字弱いったかな。
しかし語れるくらい超一流作品ばかりでとても楽しかったです!
いつも展示会を見るときは一時間ぐらいの鑑賞時間なのですが、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展は2時間じっくり見てきました。
それに特別展だけで終わりにしてはいけません。
常設展は秋から長期休館に入ります。
2020年10月19日(月)~2022年 春(予定)
このチャンスに常設展もぜひ!
久しぶりに行ったら、いつの間にかイギリスの画家作品が充実してました。
ダンテ・ガブリエル・ロセッティ『愛の杯』1867年 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影
ダンテ・ガブリエル・ロセッティ『夜明けの目覚め』 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影
ジョン・エヴァレット・ミレイ『あひるの子』1889年 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影
イギリス関連でこんな記事もあります。
以上、コロナ対策をしっかりとして楽しんできてください。
それでは!
【余談】ロンドン・ナショナル・ギャラリーのユニークな成り立ちとユニークなエピソード
ここからは余談です(以前書いた内容です)。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーの設立の経緯を調べたらちょっと面白かったので書きます。
イギリスは島国だからか、文化的にはイタリアのルネサンスの流れから取り残されていました。
その主な理由はやはり宗教にあると思います。イギリスは歴史的に国王とローマ教皇庁の仲が悪く、イタリアやその周辺国に比べてカトリックの影響が弱い国でした。
絵画はルネサンス辺りまでは宗教の教義を広めることが第一目的でしたから、総本山ローマのあるイタリアの画家たちがやはり貪欲に技術を磨き上げます。
必要は発明の母と言いますからね。
しかし宗教改革を機に肖像画や寓意画、そして風景画が人気になるにつれて、芸術不毛の地だったイギリスにも初の美術学校 ロイヤル・アカデミーが1768年にできます。
そうなると当然ながら、絵画史の浅いイギリスには、過去の優れた美術品を持つ美術館が必要との声が高まります。
ロシアからイギリスへ亡命した銀行家アンガーシュタインのコレクションが死後、政府に買い取られたのをきっかけに、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが1824年に開館しました。
その後、政治家、実業家といった絵画コレクターが国のためにと所有作品を寄贈して、ナショナル・ギャラリーの所蔵品は充実していきます。
これが他国にはないユニークな現象です。ヨーロッパの美術館はたいてい王族のコレクションが源泉ですからね。
国の未来のために絵画が集まった結果、西洋美術史を学ぶ教育施設という位置付けになりました。
今回の展示でも、美術史を学べる作品のチョイスとなっています。パオロ・ウッチェロの描いた『聖ゲオルギウスと竜』という1470年頃の作品から始まり、ポール・セザンヌの『ロザリオを持つ老女』という1895-1896年頃の作品に終ります。
その差約400年!
その間飛び飛びじゃなく、満遍なく作品が揃っての400年ですから、すごいですよ!
本腰入れて西洋美術史を学びたいなら、こちらの本をお勧めします。
カラー版 教養としてのロンドン・ナショナル・ギャラリー (宝島社新書)
『世界のビジネスエリートが身につける教養 西洋美術史』で有名な西洋美術史家・木村泰司さんの本。
読んでみましたが、超真面目な本です。少し気合いを入れる必要があります。
ページ数はそれほど多くなく写真もたくさんあるにも関わらず、これ一冊を読み込めば本気で西洋絵画史を語れるレベルになると思います。
話を戻しまして・・・ロンドン・ナショナル・ギャラリーは独特な発展ゆえに変なことも起こります💧
ヘンリー・テートという実業家が絵画をナショナル・ギャラリーへ寄贈しようとしたら、うちにはそれだけの作品を収納するスペースがありません!と断られました。仕方がないから、別館を造ってそっちに飾ることに(テート・ブリテン)。
ナショナル・ギャラリーって、最初期は上に出てきたコレクターのアンガーシュタインが持つ邸宅だったんです。
ペルメル街のナショナル・ギャラリーは常に入場客であふれており、人いきれで蒸し暑く、パリのルーブル美術館などに比べて建物の規模が小さかったこともあって、国を代表する美術館としては相応しくないのではないかという世論が高まった。しかしナショナル・ギャラリーの評議員に就任していたエイガー=エリスは、ロンドン中心部のペルメル街という場所が美術館の存在意義に正しく合致していると評価していた。後にペルメル街100番が地盤沈下を起こし、ギャラリーは一時的に105番に移設されたが、作家アンソニー・トロロープ (en:Anthony Trollope) は105番の建物を「薄汚く重苦しいちっぽけな建物で、素晴らしい絵画を展示する場所としてはまったく不適格だ」と酷評している。その後、100番、105番ともにカールトン・ハウス・テラスへと続く道路を敷設するために取り壊されることが決定した。
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/ナショナル・ギャラリー_(ロンドン)
このエピソード、めっちゃグダグダしてて面白い。笑
それで、現在のトラファルガー広場にあるナショナル・ギャラリーが建設されたわけなのですが、相変わらず狭くてさっきのテート・ブリテンの話。
さらに大風景画家ターナーが自身の作品を1000点以上遺産として寄こそうものなら、これも全部は入らないと諦め、油彩10点を除いて他は全部テート・ブリテンへ・・・。
最初から広めに造っておけよ!と言いたいところですよね。ただお金がなかった。それが唯一にして最大の理由です。
近年は1991年のセインズベリー棟の増築により多少は広くなったようです。無料で質の高い絵画が見られるということで、いつかロンドンに旅行したら絶対行きたい場所です。