こんにちは、maru-shikakuです。
あまり本を読まなかった1年でしたが、今年のベストワンは決まってます。
アガサ・クリスティーの異色作。
ミステリー作家の書く文学ってどんなもんだ?と思っている方に言っておきましょう。
ミステリー物レベルの読みやすさで、名作文学レベルの深い余韻が味わえる!
あらすじ
中年主婦の主人公ジョーンが、旅からの帰省中アクシデントで足止めに会い、小さな宿の他、砂漠しかない地で数日を過ごす。
することもなく、これまでの満ち足りた生活をかえりみた彼女だったが、次第に夫や子供たちとの愛情のズレに気づく。今まで幸せだったのは自分の思い過ごしだった……。
感想
主人公ジョーンは人として普通か?普通じゃないか?
舞台は砂漠のど真ん中の宿。動くことなくほとんど回想なのですが、そこはクリスティーの腕前でカバー。
いい気持。あたりの平和と静けさがじわじわと身の内に泌みこむようだ。気分がすっきりとさわやかになるのが、はっきりわかる。心身の疲れをいやしてくれる空気。暖かく、心地よい日光。えもいわれぬこの静寂。
これが、
外に出て、ジョーンは空き缶の山や鶏や鉄条網などを味気ない表情で見やった。何ていやなところだろう、まったく!
こういう心境の変化をエピソードを交えながらじわりじわりと描き出す様はうまいなと思います。
ジョーンは理想の生活、理想の妻、理想の母親を目指して一人突っ走っちゃうタイプ。
旦那や子供の意見など聞き入れず、
私はこうしてあげてる。だから感謝して!という感じです。
今でいうと、PTAの会長でなんでも仕切ってそうですね。
これだけだとただの自己中の人に思われるようですが、判断は間違ってないんですよね。
弁護士の夫ロドニーが、
「弁護士やだ。農場経営したい!」
って突然言いだしたのを引き止める、なんて話はどうでしょうか?
まあ、普通止めますよね。
常識がないわけじゃない。自己満足癖が強いけど、言っていることはそんなに変じゃないな、っていうエピソードが続きます。
そこらへんのビミョーな描き方がうまいですね。
足りないのは自覚
安易な考えかたをしてはなりませんよ、ジョーン。手っとり早いから、苦痛を回避できるからといって、物事に皮相的な判断を加えるのは間違っています。人生は真剣に生きるためにあるので、いい加減なごまかしでお茶を濁してはいけないのです。なかんずく、自己満足に陥ってはなりません。
そんなことを感じさせてくれる本です。
ラストの衝撃的な一文をお見逃しなく
その後は
- 父と娘の喧嘩の話
- 夫の不倫疑惑にパニック
が秀逸。
この辺りはぜひ本を手にとって確認してみてくださいね。
後半はテンポがだんだん早くなって、次!早く次!ってなっちゃう。
ミステリー作家の経験が生きたのでしょう。
終盤まで読み終わって、この本を料理に例えるなら、
「素晴らしい料理に満足!ただあえて言うなら、もう少し塩コショウが必要だったかなあ」
ご心配なく。ラストの一文にとんでもないスパイスが潜んでます。
もう、この一文があるかないかで、だいぶ違いますね。
さすがミステリー女王。最後の最後まで油断できない!
最後に
いかかでしたか?
『春にして君を離れ』は、ミステリー作家が書いた本気の文学。
ということで、昔の作品にも関わらず心打たれるものがあります。
そこまで長い本でもないし、難しい内容でもないので、気軽に読めて、けれども深いなあと感じさせてくれます。
なんだかクソ真面目に語ってしまいましたが、書評は今後もちょこちょこっと記事にしていこうと思いますので、よろしくお願いします。