こんにちは、maru-shikakuです。
なんと東京では40年ぶりに開催されるというクリムト展、はっきり言って期待以上の展示でした!
こちらは本展示会目玉の『ユディトⅠ』。
グスタフ・クリムト『ユディトⅠ』1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影
クリムトの「黄金様式」幕開けにして代表作です。当然これが一番の見所だと思うでしょう。わたしは思ってました。
しかし!圧倒的な傑作が待ち構えてます!
全長34メートルのコの字型大壁画『ベートーヴェン・フレーズ(複製)』。
複製でも金箔、真珠母貝、ガラス、鉱石をふんだんに使った豪華絢爛の代表作です。
よくもまあ美術館に入った。 全くのノーマークでした。なぜ宣伝でこれを押し出さないのか意味がわかりません。
『ベートーヴェン・フレーズ』を見るだけでも観覧料1,600円、いや、それ以上の価値があります!それくらい感銘を受けた作品です。
その作品を含め、クリムトはふんだんに金箔を使用した作風で知られてますが、思った以上に現物の質感がすごかった。
それがスマホやPCの画面、印刷では表現できてないです!
直接見ることをおすすめします!
見応え十分な上にグッズもオシャレです。滅多にないクリムト展に行きそびれないように。
いつも通り感想を書きますね。
音声ガイド
音声ガイドは稲垣吾郎さん。
気合い入ってます。舞台でベートーヴェンを演じた過去がありウィーンつながりで選ばれたそうです。
意外にも音声ガイドは初挑戦のようですが、とても聞き取りやすく落ち着いたいつものいい声で解説してくれます。
BGMはウィーン関連のクラシックが流れており、先ほどのベートーヴェン・フレーズでは絵の題材になった、あの有名な第九が流れます。
第九を聴きながら『ベートーヴェン・フレーズ』を見たからこそ、ものすごく印象に残ったのかもしれません。よって音声ガイドは必携です。
概要
[会 期] 2019年4月23日(火)〜 7月10日(水) [休室日] 5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、
6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)[開室時間] 午前9時30分~午後5時30分
※金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)[会 場] 東京都美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
観覧料※価格はすべて税込み。
当日 前売 ・ 団体 一般 1,600円 1,400円 大学生・専門学校生 1,300円 1,100円 高校生 800円 600円 65歳以上 1,000円 800円 割引・無料のご案内
※5月15日(水)、6月19日(水)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料。当日は混雑が予想されます
- 団体割引の対象は20名以上
- 中学生以下は無料
6月1日(土)~6月14日(金)は大学生・専門学校生・高校生無料- 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
- 毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は当日一般料金の半額
- 都内の小学・中学・高校生ならびにこれらに準ずる者とその引率の教員が学校教育として観覧するときは無料(事前申請が必要)
※ いずれも証明できるものをご持参ください
上野のれん会タイアップセット券
上野周辺の飲食店約100店が集う「上野のれん会」の加盟店から厳選した店舗の食事券などがついたお得なセット券です。
販売時期 : 2019年2月10日(日)〜7月10日(水) 価 格 : 2,000~3,000円 販売場所 : セブンチケット ※ 店舗によって価格が異なります
※ 本券は「一般」用です
※ 食事券・引換券の使用は8月31日(土)まで
出典:https://klimt2019.jp/outline.html, https://klimt2019.jp/tickets.html
混雑具合
4/28(日)14:00頃に行きました。
GW真っ只中の日曜日ということもあって、会場に入るまで10分待ち。
チケット売り場も並んでました。
このブログではなんども言ってますが、チケットは上野駅構内、公園口改札手前に美術展全般のチケット売り場があります。そちらを利用するとスムーズにチケットが買えます。
入るのに時間がかかりましたが、入った後は比較的すんなりみられます。大きい作品が多いからでしょう。
ここまで混むことはほぼないでしょうが、期待度が高い展示なだけに、土日の昼間や会期の終わりはそこそこ混みそうです。
撮影できるスポット
東京都美術館恒例、出口手前に記念撮影スポットがあります。
感想
クリムト家を襲う悲劇。そりゃクリムトも死を考えざるを得ないでしょう。
展示会第1章はクリムト家の話。
クリムト家は長男クリムトと2人の弟、姉に3人の妹、父母の9人家族なのですが、
父=クリムト30歳の時死去。
妹アンナ、弟エルンスト=若くして死去。
母、姉クララ=鬱病。
という悲劇の家系だと知りました。
クリムトは死をテーマにした作品が多いですが、世紀末の悲観的な空気に加えて、上の家庭事情も作風に影響していることは間違いないですね。
さらに異常に女性の身体に興味があり、人気絶頂期には15人のモデルが寝泊まりし、少なくとも14人の非嫡出子(結婚してないけどできた子供)がいたという事実。羨ましいようなそうでもないような。
男は死に近づくほど子孫を残さなきゃ!という本能があります。にしても14人て。ものすごいエネルギー。
クリムトは常に死を意識していたことがわかります。
グスタフ・クリムト『へレーネ・クリムトの肖像』1898年 ベルン美術館蔵 図録を撮影
この章で印象的だったのが、弟エルンストの娘へレーネ6歳の肖像。
クリムトの肖像画は全般的にそうですが、顔や手足は精密に描いてても、服や背景はスケッチレベルや漫画風のタッチだったり、立体感がない模様だったりしますね。
古典絵画では光(明と暗)、印象派では色(前進色と後退色)による対比表現がされてきたのですが、
2次元と3次元の組み合わせという対比表現がクリムト作品のキーポイントですね。
さらに絵の具の質感とその他の材料の質感の対比も重要とわかりました。
そちらはあとで説明します。
クリムト作品の源泉
クリムトは美術学校を卒業後、同級生フランツ・マッチュと弟エルンストの3人で劇場装飾作製会社を設立します。
グスタフ・クリムト『カールスバート市立劇場の緞帳のためのデザイン』1884/85年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影
劇場の幕に描かれる絵とか建築装飾とかを手がけてました。クリムトは当然技術レベルが高いのですが、他の二人も相当の腕。
エルンスト・クリムト『フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ』1890年頃 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影
エルンストが病で亡くなると、会社も解消されクリムトとマッチュは別の道を辿ることになります。
フランツ・マッチュ『女神(ミューズ)とチェスするレオナルド・ダ・ヴィンチ』1889年 中環美術館(台湾)蔵 図録を撮影
マッチュの絵は背景が二次元的ですね。絵画に空間があるよりない方が建築物に合うからこういう表現なんです。建築物自体が3次元ですからね。壁にかけるのとは訳が違います。
クリムトのその後の作風の基礎も会社時代に築かれました。
日本大好きのクリムト。「黄金様式」へ。
グスタフ・クリムト『女ともだちⅠ(姉妹たち)』1907年 クリムト財団蔵 図録を撮影
なんだかボナールの作風にそっくり。掛け軸風の極端に細長いサイズですし。
ボナールも大の日本好きでしたね。この頃のヨーロッパの画家はゴッホもそうですけど、例外なくどの画家も日本画に影響を受けてます。
受けた影響をどう消化するかは個々で違ってるのが面白いです。ボナールとクリムトは作風が近いですが、ボナールはあくまで絵の具オンリーの表現。
グスタフ・クリムト『ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)』1899年 オーストリア演劇博物館蔵 図録を撮影
グスタフ・クリムト『ユディトⅠ』1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影
対してクリムトは他の素材を用いました。
日本画は琳派から取り入れた金箔。
金箔を使った黄金様式の最初期作がこの2つです。どちらも絵も迫力がありますが額縁の質感がすごい。ぜひ実物を見てください。
黄金のドレスというのはリアルでは無理ですよね。これは2次元だからこそ表現できます。
金箔以外で気になったのは、『ユディトⅠ』ユディトの顔。
敵軍の首を討ち取った寡婦はちょっと上目遣いで挑発的な顔です。
クリムト作品に上目遣いは頻出します。まあ…その角度が大好きなんでしょうね。笑
傑作『ベートーヴェン・フレーズ』
フレーズとは建築のことでこの作品も装飾芸術になります。
しかし建築ではなく当初は展覧会に出品の目的で作られました。
なぜこんな長い作品を作ったのか。
見てると絵巻物を眺めてるような気がしました。
つまりクリムトの絵巻物オマージュ作品じゃないかなと。
実際左の壁からストーリーが進みます。
グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ(部分)』1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影
甲冑の男が悪を倒そうと立ち上がる。
甲冑の金や、剣の柄に組み込まれた鉱石が見事!!
グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ(部分)』1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影
欲の権化たち。
最後は歓喜の歌と接吻。
グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ(部分)』1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 チラシを撮影
現代でも十分通用するようなグラフィックデザインがすんばらしい。
こういう漫画のイラストがありそうですよね。
最後の接吻の部分ですが、既視感がありました。ムンクです。
『月明かり、浜辺の接吻』オスロ市立ムンク美術館蔵 クリアファイルを撮影・切り抜き
ムンクは時間を表現した結果、2人の顔が溶けて一体化してしまったという自説を過去に書きました。もはや口が見えません。
※過去の展示の感想です→ムンク展の感想@東京都美術館 - まあるい頭をしかくくするブログ
対してクリムトは回した腕で隠れちゃって顔がよく見えません。
隠す。これは意図的ですね。
想像力がかき立たせられるんですよね。
散々裸を描いておいて。対比表現も狙ったのでは?
クリムトが持っていた喜多川歌麿の春画で、顔同士をくっつけた結果、顔のパーツが描かれない絵がありました。おそらくその絵を参考にしたのかと思います。
接吻に関して、ムンクは純粋に絵画表現を工夫し、クリムトは絵画に想像という文学表現を入れたという違いがあるのかなーと思いました。
わかりやすい風景画・人物画も描いてる
グスタフ・クリムト『家畜小屋の雌牛』1899年 レントス美術館蔵 図録を撮影
グスタフ・クリムト『丘の見える庭の風景』1916年頃 ツーク美術館蔵 図録を撮影
グスタフ・クリムト『オイゲニア・プリマフェージの肖像』1913-14年 豊田市美術館蔵 図録を撮影
このあたりの風景画、人物画は印象派の要素をうまく取り入れたいい例です。
とても分かりやすく素晴らしいけれども、黄金様式ほどの個性が見られませんね。
グスタフ・クリムト『女の三世代』1905年 ローマ国立近代美術館蔵 図録を撮影
やはりクリムトはいろんな素材を使ってこそです。
これなんかムンクぽく、三世代を同じ画面に描いて時間を表現してます。
銀箔を使ったとか。後に酸化で黒ずみ、大部分をブラチナ箔に変えてます。
そういう発想は、まるで技術者ですね。
気に入ってるのは母親の首の角度。
この角度、クリムトの有名作『接吻』にもあった。
グスタフ・クリムト『接吻』1908年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 wikipediaより
※本展には展示されていません!!
この時代にここまで2次元表現を追求した画家はいないのでは?
今生きてたら確実にイラストレーターか漫画家になってそうですね。
貴重なクリムト展をお見逃しなく!
クリムトをここまで知る機会はなかったので嬉しい展示です!
特にベートーヴェン・フレーズのような隠れた傑作が見られてよかった!
まだまだ美術史には眠ってる良作がありそうですね。
それと、新美でやってるウィーン・モダン展も行きたくなります。
行ったら感想書くのでそれも読んでみてくださいね!
それでは!
【追記】書きました!