こんにちは、maru-shikakuです。
ハプスブルク家とは、ヨーロッパのほぼ全域を650年支配し続けた一族です。
なぜ長年支配を続けられたのか?拡大できたのか?
それは基本的に戦争によって領土を獲得したのではないからです。戦争は負けるリスクがあります。ハプスブルク家は必ず勝つ戦法を選びました。
政略結婚と子孫繁栄です。
莫大な財力と広大な領土を持つブルゴーニュ地方を結婚によって獲得したマクシミリアン1世から代々、この戦法を使って急速に領土を広げていったのです。
ハプスブルク家は権力を誇示するために、美術品を収集する趣味のある一族でした。この美術展はそのコレクションを一部公開するものです。
目玉はベラスケスの傑作、マルガリータ・テレサ。
ディエゴ・ベラスケス『青いドレスのマルガリータ・テレサ』1659年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
そして歴代王・王女の肖像画です。
ヴィジェ=ルブラン『フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793)の肖像』1778年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
肖像画については歴史を学びながら絵を見ると非常に面白いです。
もちろん、見終えた後に復習するのも楽しいです。
ハプスブルク展は西洋史と美術の関係を紐解く展示だったため、どうしても知識がないと記事が書けず、今まで以上に歴史について調べてまとめてみました!
是非この記事を参考に鑑賞してみてください。
概要
会期: 2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
開館時間: 9:30~17:30 毎週金・土曜日:9:30~20:00
ただし11月30日(土)は17:30まで
※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月曜日、(ただし、11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館)、11月5日(火)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)、1月14日(火)
観覧料金: 当日:一般1,700円、大学生1,100円、高校生700円
前売/団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円
※上記前売券は2019年8月10日(土)~2019年10月18日(金)まで販売。ただし、国立西洋美術館では開館日のみ、2019年8月10日(土)~2019年10月17日(木)まで販売。
※2019年10月19日(土)からは当日券販売。販売場所はこちらでご確認ください。 ※団体料金は20名以上。
※中学生以下は無料。
※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
出典:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019haus_habsburg.html
混雑具合
10/19(日)15時ごろに行きました。
チケット売り場は5~10分待ちくらいの行列で、中も人は多いですが待ち時間はなく、広々としてて作品が見づらいほどではありません。
チケットに関してはJR上野駅構内公園口改札の手前にあるチケットショップでも扱ってます。
上野公園内のどの美術館のチケットも買える便利なところ。知名度が低いのかだいたいすぐ買えます。当日券はこっちで買うのがベターです。
撮影スポット
展示の入り口手前にあるホールに大きなパネルがあります。ここは撮影可能です。
撮影するなら、常設展はほぼ全ての作品が撮れます。
国内最高級の常設展です。特別展のチケットなら追加料金なしでみれます。
ぜひ寄ってみてくださいね。
参考記事
参考にした書籍
これまでの美術展感想記事史上、一番勉強しました。笑
目的があると勉強も楽しくなりますね。ゴリゴリの理数系なわたしは基本的に感覚的にしか絵画鑑賞をしたことがなかったのですが、今回調べ物をして世界史の面白さがわかった気がします。感謝。
とはいえ結構苦戦しました。というのも、ハプスブルク家はまず代々の名前からして混乱します。
ブルボン王朝のルイ家のように数字で世代がわかるようになっていません。
マクシミリアン、フィリペ、カルロス、フェルディナントなど、種類がいっぱいあって、えっ、この人はどの時代の人だっけ?となんども思います。
国が変わると名前が変わったりすることもあり、かなりややこしい。
参考にしたのは偉大なるwikipedia、本展示会の図録、そして新書です。
図録はゴシック体の金文字にマルガリータ・テレサ、マリア・テレジアの超格好いい表紙です。
また背表紙もかっこいいです。
昔の図鑑ぽいですよね。
解説は詳細で読み応えがあります。当然、美術品の解説を重視しています。
このコレクションは誰のもので、その後どこに移されたか?など、美術品所蔵地の変遷も書かれています。戦争で一度他国に渡ってしまったものもあるらしいですね。
図録で重宝したのがこちらのハプスブルク家家系図。パッとみただけでも複雑なことがわかりますよね。
※レオポルト1世の息子ヨーゼフ1世は、2番目の妻クラウディア・フェリツィタスとの子ではなく、正しくは3番目の妻エレオノーレ・マグダレーネとの子です(wikipedia調べ)。正確に書くとこの略図に収められないかもしれませんが、ちょっと間違ってる箇所もありました。
図録の美術寄りに対し、歴史のつながりを重点にまとめたのが今回読んだ「ハプスブルク家(講談社現代新書)」という新書です。
ハプスブルクの歴史をわかりやすく紐解いてくれます。ご興味がありましたら是非。
感想
収集の始まり
ハプスブルク家はマクシミリアン1世から美術品を収集します。最初は甲冑や工芸品がほとんどです。
西洋国立美術館特有の地下の大ホールに、巨大タペストリーと甲冑が並んであって、いきなりインパクトあります。
甲冑はこちらのデザインが気になりました。
ヴィルヘルム・フォン・ヴォルムス(父)『ヴュルテンベルク公ウルリッヒ(1487-1550)の実戦および槍試合用溝付き甲冑』1520-30年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
フルーティングというひだが凄まじくかっこいいですよね。作る手間とコストのせいで廃れてしまった技法だとか。
実物はとても精巧にできてて見入っちゃいます。
何よりこの腰。メタボ腹には厳しいサイズですね。笑
変人ルドルフ2世が集めたコレクション
ヨーゼフ・ハインツ(父)『神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(1552-1612))の肖像』1592年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
ルドルフ2世。政治的な手腕はイマイチだったものの、美術の目利きはあった変人です。
ハプスブルク家の苦労は領土や権力の拡大よりも維持にあったようで、近親相姦を繰り返さざるをえないのが悲劇でした。
その結果として夭折、病弱、精神疾患の子供が続出しながらも、なんとか血縁をつなぐ綱渡りの歴史です。
絵を見るとわかりますが、ルドルフ2世は極端な受け口が特徴的な人でした。こういう顔の人がハプスブルク家にいっぱいいます。
ハプスブルクコレクションはこの方の恩恵が多大にあります。皇位を利用して莫大な金額を美術品と美術収集室に費やしたルドルフ2世はデューラーやアルチンボルドを見出した人でした!
ジュゼッペ・アルチンボルド『ウェルトゥムヌスとしてのルドルフ2世』1568年 スコークロステル城蔵 wikipediaより ※本展示には展示されていません。
アルチンボルドが描いたルドルフ2世。この絵も来ればよかったのにね。
そういえば去年来てました。見られなくて残念。
見どころ | 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展 | Bunkamura
アルブレヒト・デューラー『アダムとエヴァ』1504年 国立西洋美術館蔵 図録を撮影
デューラーはドイツの有名画家です。ドイツ人らしく非常に細かで正確な描写が特徴です。
特にお家芸の銅版画は書き込みがすごい・・・! 人体はコンパスでバランスを取ってます。
ルドルフ2世のお抱え画家でいいと思ったのは、先ほどの肖像画を描いたヨーゼフハインツ(父)。
ヨーゼフ・ハインツ(父)『ユピテルとカリスト』1603年のやや後 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
光の捉え方がうまいです。どことなくグレコの高コントラスト画っぽい配色ですが、かたやスイス、かたやスペインの画家とはいえマニエリズムの絵画はだいたいこんな感じで当時の流行の色調なのでしょうか。
フィリペ4世といえばベラスケス。王女の絵は本物偽物が隣同士?
ベラスケスはスペイン・ハプスブルク家の王フィリペ4世に仕えた宮廷画家として有名ですよね。
フィリペ4世の娘マルガリータ・テレサは、近親婚の影響が見られない貴重な子で、父親に非常に可愛がられました。
その証拠にベラスケスに何度も肖像画を描かせてます。
わたしは昔、3歳のマルガリータ・テレサの肖像画を見たことがあります。
ディエゴ・ベラスケス『薔薇色のドレスの王女』1653-1654年頃 ウィーン美術史美術館蔵 wikipediaより ※本展示には展示されていません。
遠近感のおかしな机に茎のない花瓶の花が添えられていて面白い絵だなと思いました。思えばわたしにとって絵画の面白さはこの絵をきっかけに目覚めたような。
『ラス・メニーナス』に描かれているテレサは5歳の頃。
ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』1656-1657年の間 プラド美術館蔵 wikipediaより ※本展示には展示されていません。
ハプスブルク展で展示されているのは彼女が8歳の頃の肖像画です。
ディエゴ・ベラスケス『青いドレスのマルガリータ・テレサ』1659年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
まだ見ぬ許嫁にして親戚のレオポルド1世へのお見合い写真的な意味で描かれました。
流行のドレスを利用した三角形の構図と奥行きの表現。
最小限にして最大限の効果があるハイライトの入れ方はベラスケスの得意とするところです。
なんとこの絵の右脇にはそっくりの絵があります。
ベラスケスの娘婿兼一番弟子の模写だそう。
フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ『緑のドレスのマルガリータ・テレサ』1659年頃 ブタペスト国立西洋美術館蔵 図録を撮影
この2枚を比べてみるとベラスケスの技が際立ちます。
ベラスケスは以前にも感想で書きましたが、肌に乗るピンクの表現がどの画家も真似できないレベルに達しています。
参考:プラド美術館展の感想@国立西洋美術館 - まあるい頭をしかくくするブログ
手をみると手っ取り早くわかります。
(手を見ればその画家の技量がわかると言ったのはピカソだったかな?)
そもそも模写の方は不鮮明で質感が全然なく死んだような肌で、基礎技術からして差があるのですが、肌色の表現に見られる何気ない差が非常に意味を持ちます。
言い換えれば、ないと違和感を感じるのが一流の技術と言えるのではないでしょうか。
ヤン・トマス『神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640–1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(165 1–1673)の宮中晩餐会』1666年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
マルガリータ・テレサがレオポルド1世のもとへ嫁いだお祝いの晩餐会の様子です。
テーブルが綺麗な輝きに満ちているところが個人的に好みな作品です。
マルガリータ・テレサは6年間で6人の子供を産み力尽きて亡くなりました。ハプスブルク家の女性はそれはもう凄まじく大変なのです。その甲斐も虚しく6人全てが夭折。
フィリペ4世には子供が3人いましたが、次男プロスペロは夭折。長男カルロス2世は先天的な虚弱と精神疾患で跡継ぎが生まれず。勢力争いの末、スペインはフランスのブルボン家に渡ることとなったのです。
ハプスブルク家最高のコレクター・ヴェルヘルム
ヤン・ファン・デン・フーケ『甲冑をつけたオーストリア大公レオポルト・ヴィルヘルム (1614–1662)』1642年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
先ほどのレオポルド1世のお父さんの弟レオポルド・ヴェルヘルム。
ややこしいですね。当時スペイン・ハプスブルグ領だったネーデルラント(今のオランダ・ベルギー)の領主。
この人は歴史的にさほど重要ではないみたいですが、集めた作品がハプスブルク・コレクションの大部分を占めるといっていいくらい、美術コレクターだったそうです。
天は二物を与えず、ルドルフ2世といい、政治的な能力と美的センスはなかなか両立しませんね。
ヴェルヘルムのコレクションの質はハプスブルク家で一番といえます。
ティッツィアーノ・ヴェチェッリオ『ベネデット・ヴァルキ(1503-1565)の肖像』1540年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
ティッツィアーノ。これも手の表現がいい!
ティントレット。さっきの自身の肖像画といい、甲冑がヴェルヘルムの好みだったのでしょうか。
ヤン・ブリューゲル(父)『堕罪の場面のある楽園の風景』1612-1613年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
ヤン・ブリューゲル(父)最高の商業画家一族の一人。緑の鮮やかさがいい感じ。これは当時もだろうけど今でも売れる絵ですね。
動物が可愛い。
ペーテル・パウル・ルーベンス工房『ユピテルとメルクリウスを歓待するフィレモンとバウキス』1620-25年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
ルーベンスの工房作品(ルーベンスと複数人の画家が作品を手がける。ジブリみたいなもんです)。
とはいえルーベンスらしさが満載で、斜め線の多様と動きを追加、手足の線がが輪っかのようにつながる構図はやはり素晴らしいの一言。
ルーベンスがいかに斜め線で動きを表現したか、過去の記事も参考にしてください。
ルーベンス展の感想@国立西洋美術館 - まあるい頭をしかくくするブログ
フランツ・ハルス『男性の肖像画』1634年 ブタペスト国立西洋美術館蔵 図録を撮影
フランツ・ハルス。
この方の描く人は基本ふざけてて、絵の評価より題材の面白さばかり目立ってしまいます。結果的にオランダ絵画展では添え物扱いでハルス作品が登場します。笑
しかし上のような普通の肖像画を見れば、ただの画家ではないなとつくづく思います。
こんなに生き生きとした顔を描ける人はそうそういません!
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『使徒パウロ』1636年? ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
レンブラント。
ハプスブルク展で一番印象に残った作品です。レンブラントは陰のグラデーションの出し方がとてつもなくうまくて、いつまでも見てられます。
フェルメールといい、黄金期のオランダ絵画の陰影表現はなんと細かいのでしょうか。
写真では表現しきれません。ぜひ実物を見て確認してください。
ヤーコブ・ファン・ロイスダール『滝のある山岳風景』1670-80年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
ロイスダール。
この方の風景画は構図のお手本になるものばかりです。真横から滝を描くことで奥行き感が出てきます。
王家の肖像画
マルティン・ファン・メイテンス(子)『皇妃マリア・テレジア(1717-1780)の肖像』1745-50年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
ハプスブルク家の女性といえば、レオポルド1世の孫娘マリア・テレジア。
ものすごくラスボス感漂わせている貫禄が示す通り、彼女は女帝としてハプスブルグ帝国の発展に寄与しつつ、同時に母としてマリー・アントワネットを含む16人の子供を産み育てた超人類です。笑
政治的には学校を作るといった教育制度や医療の進歩など、中世から近代への橋渡し的な役割を担いました。
紹介した『ハプスブルク家』の新書でも、マリア・テレジアの章は一番筆が乗ってます。ライバルとのにらみ合いなど面白い要素がいっぱいあるので、ぜひ読んでみてください。
これを読むと悲劇的な最後を遂げただけのマリー・アントワネットよりも断然小説やドラマの題材になりそうな人生を送っている方ですけど・・・どうして認知度が低いのでしょうか?
【追記】ブログ読者からこの件でコメントを頂きました(記事最後に掲載しています)。確かに逞しさが溢れすぎてて嫌厭されてるのかもですね笑。けれど今の時代、こういう女性の物語ってウケるんじゃないかな。どうでしょう、N◯Kさん??
ヴィクトール・シュタウファー『オーストリア=ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世』1916年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
フランツ・ヨーゼフ1世。
19世紀末から20世紀、大帝国で統治できた時代は過ぎ去り、ハンガリーやチェコといった国々が次々に独立運動を起こします。ほぼ形骸化したハプスブルク帝国で最後の皇帝として君臨されたお方。
時代の流れに逆らえるわけもなく損な役割。しかも、親族や跡継ぎが暗殺や自殺など次々と不幸な目に会う人生でした。
ヨーゼフ・ホラチェク『薄い青のドレスの皇妃エリザベト(1837-1898)』1858年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影
妻エリーザベト。コルセットでありえないウエストなど、美への関心が高かった。
ハプスブルク帝国の一つオーストリア帝国はハンガリー人の独立を認め、オーストリア=ハンガリー二重帝国となりますが、エリーザベトのハンガリー好きが影響したのだとか。
最後は無政府主義者に暗殺されます。
不運な皇帝ヨーゼフ1世は人柄がよく、国民から人気がありました。
政治的には都市改革がうまくいっています。ウィーンにリンク通りという大通りを作ってそこに主要の文化施設を集め、国際都市としてのウィーンを作りました。
その辺のお話は夏に開催されていたウィーン・モダン展の感想でも触れました。
ウィーン・モダン展で学んだ歴史がハプスブルグ展で再び出てきた時、点と点がつながる楽しさを感じました。歴史って面白いと思った瞬間でした。
クリムト展といい、美術界の2019年は本当にウィーンの年でしたね。
ハプスブルク展はウィーン美術史美術館からの作品がほとんど。その美術館もヨーゼフ1世の時代に建てられたものです。
美術史美術館(図録を撮影)。生きてるうちに一度は行ってみたい憧れの場所です。
最後に
ハプスブルク家は西洋史としても、また美術史としても非常に影響力のある一族でした!
何度も言いますが歴史って面白いですね!
今後絵画を語る上でももっと勉強しなければなと思いました。
この記事では絵画に絞って紹介しましたが、工芸品や宝飾品なども多数展示されています。きらびやかなヨーゼフ1世のピストルが印象的でしたね。
そこも含めて大ボリュームのハプスブルク展、ぜひ行ってもらって、学びながら美術に触れる楽しさを感じてもらえたらと思います。それでは!
↓同時開催の美術展です。
西洋国立美術館なら常設展もぜひ。