まるしか Photo & Art Blog

一眼撮影と美術展感想がメインテーマの、ちょっと突っ込んでみたブログです。

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コンスタブル展の感想@三菱一号館美術館(東京)

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こんにちは、まるしかです。

 

35年ぶりの回顧展。

偉大なイギリス風景画家ターナーの影に隠れがちなコンスタブルに、スポットライトが当たりました。

 

目玉はなんといっても、横2m越えの大作『ウォータールー橋の開通式』でしょう!

この作品、デカイだけじゃなく圧倒されます。 

 

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ジョン・コンスタブル『ウォータールー橋の開通式(ホワイトホールの階段、1817年6月18日』1832年 テート美術館(イギリス)蔵 wikipediaより

 

正直webではこの絵のすごさは実感できません。木々や水面のきらめきが、大画面じゃないと見にくいのです。

 

コンスタブルは印象派に先立って、一瞬一瞬のまばゆい光の移ろいを表現した人です。そのため素早く作品制作。

その証拠に、作品には日付に加えて、何時から何時までに描いたと記録しています。この面白い話はまた後ほど。

 

ターナーとはライバル同士だったことはご存知でしょうか。上の絵は1832年当時、ロイヤル・アカデミーでターナーの絵と隣同士で展示されました。

本展ではその再現をしました。コンスタブル V.S. ターナーを鑑賞できる面白い試みです。当時の客になったつもりで2枚の絵を見比べると楽しめます。

 

全85点のボリューム。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの分館的な存在のテート美術館から、貴重なコレクションがやってきます。

風景画好きなら必ず楽しめるコンスタブル展の感想を書いていきます。

  

 

展覧会概要・アクセス

会期:2021年2月20日(土)~5月30日(日)

 

開館時間:10:00〜18:00

※入館は閉館の30分前まで

※緊急事態宣言発令中(3月中)は夜間開館を中止とさせていただきます。

詳しくはこちらをご覧ください。

 

休館日:月曜日

※但し、祝日・振替休日の場合、会期最終週と2月22日、3月29日、4月26日は開館

※新型コロナウイルス感染症予防の観点から、会話をお楽しみいただく企画の​「トークフリーデー」は中止とさせていただきます。上記の日程は予定通り開館いたします。

 

出典:https://mimt.jp/constable/outline.html

 

JR「東京」駅(丸の内南口)徒歩5分
JR「有楽町」駅(国際フォーラム口)徒歩6分
都営三田線「日比谷」駅(B7出口)徒歩3分
東京メトロ千代田線「二重橋前」駅(1番出口)徒歩3分
東京メトロ有楽町線「有楽町」駅(D3/D5出口)徒歩6分
東京メトロ丸ノ内線「東京」駅(地下道直結)徒歩6分 

 

チケット情報

新型コロナウィルス感染拡大防止のため、各時間の入場人数に上限を設けています。

 

一般:1,900円 高校・大学生:1,000円 小・中学生:無料
※本展覧会での前売り券の販売はございません。
※障がい者手帳をお持ちの方は半額、付添の方1名まで無料。

 
事前に日時指定券をご購入

Webketのみの販売

Webket 手数料無料! オンラインチケットはこちら
優先的にご案内いたします。販売開始日は順次当館WEBサイトでお知らせいたします。

 

当日にチケットをご購入
学生割引、障碍者手帳割引、MSS会員のご同伴者割引の方は、当館のチケット窓口のみでの販売となります。

 

日時指定券をお持ちでない方

鑑賞券、MSS会員カード、中学生以下のお子様

毎時先着順のご案内となります。人数が上限に達した場合は、次の時間帯をご案内となります。

出典:https://mimt.jp/constable/ticket.html

 

わたしはwebketからチケットをネット購入しました。

日時は指定されますが、待たされず確実に入れます。

 

混雑具合

平日の開館10時に行ったせいか人はまばら。

会場はそこまで広くないのですが、人も多くないのでゆったり見れます。

会期の終わり頃や大型連休は混みそうです。お早めに。

 

撮影スポット

作られた撮影スポットはありません。

が、美術館自体が趣のあるレンガ造りで映えます。

 

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館内は撮影NGです。

展示の最後の方に一枚だけ写真が撮れる絵があります。

 

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ジョン・コンスタブル『虹が立つハムステッド・ヒース』1836年 テート美術館(イギリス)蔵 会場にて撮影

 

感想

後期作品が面白い 

展示ではもちろんコンスタブルの生涯を交えて絵画の解説をしてくれます。

しかし、まずはテート美術館の壮大な風景画コレクションを堪能しましょう。

 

コンスタブルは初期〜中期までは自然に忠実な画風です。

 

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ジョン・コンスタブル『フラッドフォードの製粉所』1816-17年 テート美術館(イギリス)蔵 図録を撮影

 

素朴であり、生真面目であり・・・人によっては後期のドラマティックな作風がいいと思うかもしれません。

 

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ジョン・コンスタブル『ヴァリー・ファーム』1835年 テート美術館(イギリス)蔵 図録を撮影

後期の作品『ヴァリー・ファーム』。中央に見える家も脚色しているそうです。

想像が混じっているだけじゃなく、コンスタブル後期の作品は非凡な雰囲気が漂います。

 

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先ほど登場した『虹が立つハムステッド・ヒース』のように、虹が頻出するのも後期の特徴ですね。

それこそ新海誠作品ばりに虹が出てきます。

中央の風車は実在しません。初期の徹底した写実主義からしたら、かなりの変わり身です。

 

中期と後期を分ける区切りは1828年、妻マライアの死。

 

それまでの順風満帆な人生から一転、友人の死、自身の病気も続き、精神的に不安定になります。心境は作品に表れてしまってますね。

 

それでも、1837年に死去するまでの9年間がなければ、コンスタブルの名声はここまで高くなかったんじゃないかな?と思います。

後期作品にはっきり現れたハイライト表現は、後の印象派へ影響を与えました。

 

そのへんを次に紹介しましょう。

 

コンスタブルのハイライト 

コンスタブル作品には、ペインティングナイフを使った跡が残ってます。絵描きは素人のわたしでもわかるくらい。

当時流行り始めた、アトリエじゃなく戸外で描くスタイルは、とにかく素早く描かないといけません。

コンスタブルが水彩画を好んだのも速く描けるためです。

ただ、油絵の方がやはり売れます。油絵の硬い絵の具を効率よく塗りつけるには、ナイフが楽なんですよね。

 

で、白い絵の具をピンポイントで塗って、葉っぱや水面が揺れるときのきらめきを表現しています。この技は晩年ほど顕著に使用してます。

 

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『ウォータールー橋の開通式(ホワイトホールの階段、1817年6月18日』拡大 図録を撮影

『ウォータールー橋の開通式』はきらめきでできてると言っていいくらい、画面全体に白が散りばめられています。

 

刃先で塗るだけじゃなく、引っ掻いてハイライトを作る技も使ってます。

 

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『ウォータールー橋の開通式(ホワイトホールの階段、1817年6月18日』拡大 図録を撮影

↑右下の枝のところとか。

 

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ジョン・コンスタブル『コルオートン・ホールのレノルズ記念碑』1833-36年 図録を撮影

↑※この絵は本展に展示されていません。

以前開催されていたロンドン・ナショナル・ギャラリー展@国立西洋美術館(2020年)でのコンスタブル作品の方がわかるかもです。木の枝に沿った細い線のようなハイライト。実物は確かに引っ掻いた跡がありました。

 

これやった人はあとにも先にもコンスタブルくらいです。

  

引っ掻きのほうが、非常に線の細いハイライトがつくれます。小枝にできるハイライトは絵の具を置くより、削った方がシャープで質感が出ますね!

 

戸外で絵の具無しで戦った?

コンスタブルは自然を生に描写しようと外に出て絵を書いた人です。しかも、描いた時間まで記録されているのは今回初めて知り、興味深かったです。

 

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ジョン・コンスタブル『雲の習作』1822年 テート美術館(イギリス)蔵 wikipediaより

 

この絵は8月27日、風向きは南西から、11時、12時というメモが残されています。一時間で完成させたということです。

 

印象派も同じく戸外で風景画を描いたのですが、それができたのは持ち運びに便利な絵の具チューブの発明があったからこそでした。

 

コンスタブルのお父様が持つ広大な土地を活かして、敷地内の製粉所に絵の具を置いて制作したそうです。

 

この頃、チューブはあったのか?

 

答えはサクラクレパスのHPにありました。

「コラム」絵具チューブの歴史|SAKURA PRESS|株式会社サクラクレパス

 

絵の具の容器の歴史を下にまとめます。

〜1828年:豚の膀胱袋

1828年〜:真鍮のシリンジ

1840年〜:ガラスのシリンジ

1841年〜:錫(スズ)の使い捨てチューブ

 

コンスタブルの晩年は妻の死1828年〜です。その頃は過去の主題を想像も含めてアトリエで描き直し時期になっていました。

 

つまり、少なくともそれ以前の戸外制作では、シリンジやチューブを使ってなさそうです!

 

豚の膀胱袋に絵の具を入れて、外に持ち出す。芸術のためには仕方なかったのでしょう!

 

 

最後に

 

コンスタブルの貴重な回顧展、特に 『ウォータールー橋の開通式』を間近に見れたのはすごく良かった!この絵だけでも行く価値はあります!

 

ターナーの影に隠れがちなコンスタブルですが、後期の作品は派手めで面白いはずですのでぜひ。

それでは!

 

P.S.

ちょっと記事を作るのに時間かかっちゃいました・・・最近怠けちゃってますね😂これから徐々に腰をあげます。写真も撮らないと。

 

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展の感想@国立西洋美術館

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【追記】実際に見に行きましたため、大幅に加筆修正しました。

こんにちは、まるしかです。

 

展示会再開がいいのか悪いのか複雑な中、さっと行ってきました!

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実際、最高でした!!

 

思ってたよりも大きい作品が多く、その迫力に圧倒されます。

 

こればっかりはネットの小さな画面で見るのとは訳が違う。実物を見たほうがいいです!

 

この展示の目玉は、ゴッホとフェルメールだなぁと思っていたのですが・・・

見てから思ったのは、正直どれもすごかったということ!

 

そもそもロンドン・ナショナル・ギャラリーの絵が日本に渡る事自体初だそうです。

 

レンブラント、ベラスケス、クロード・ロラン、コンスタブル、ターナー、ルノワール、ドガ、モネ、セザンヌ・・・

 

サッカーでいえば、まさに銀河系軍団⚽️

まさに今年上半期では一番の美術イベントです。

  

ちょっと前にコートールド美術館展が開催されていましたね。

豆知識ですが、コレクターのコートールドさんの設立した基金で購入したのが、今回観られる予定のゴッホのひまわりです。

 

前置きはこれくらいにして、以下、展示会の情報、感想と続きます。

 

 

 

↑展示会のtwitterは作品紹介が充実しています。こちらは展示の様子。

 

 

チケットについて  

東京展は日時指定チケットを前もってスマチケ、読売新聞オンラインストア、もしくはファミリーマート各店舗のイープラスでチケットを購入する必要があります。

対象日時:2020.6.23(火)~2020.10.18(日) 9:30-17:30

参考:https://artexhibition.jp/topics/news/20200604-AEJ243245/

 

チケットはイープラスにてスマチケ(スマホにチケットが入っている)で購入できました。

 

2週間単位で日時指定券が順に発売されます。発売開始からいい時間帯はすぐ埋まるため、発売開始時間に待ち伏せするとGOOD。

 

事前にイープラス(クレカ決済のみ)で会員登録しておくのを忘れずに…!

 

それと決済時にクレカの会員ページのパスワードが求められました。本人認証サービス(3Dセキュア)がセキュリティ対策で働いているようです。

 

概要

会期:2020年6月18日(木)~10月18日(日)※会期変更

 

開館時間:9:30~17:30  毎週金・土曜日:9:30~21:00 ※入館は閉館の30分前まで

 

休館日:月曜日(ただし、7月13日(月)、7月27日(月)、8月10日(月・祝)、9月21日(月・祝)は開館)、9月23日(水)

 

観覧料金:当日(日時指定入場券):一般1,700円、大学生1,100円、高校生700円
日時指定券(本券のみでの入場不可):一般200円、大学生100円、高校生100円

  • ※日時指定入場券・日時指定券は6月13日(土)正午より販売(国立西洋美術館での販売なし)。販売対象期間は2020年6月23日(火)~10月18日(日)。
  • ※前売券・無料観覧券等をお持ちの方で、入場日時を指定してご入場される場合は、ご希望の入場日時の「日時指定券」をご購入のうえ、前売券・無料観覧券とともに本展会場へお持ちください。「日時指定券」をお持ちでない場合は、当日先着順または会場で配布する整理券によりご案内いたします(整理券の枚数には限りがあり、ご入場いただけない場合がございます)。
  • ※東京・春・音楽祭2020 ミュージアム・コンサートセット券(一般のみ)についてはこちら(3/303/31)をご覧ください。※臨時休館のため中止
  • ※団体料金は20名以上。※販売中止
  • ※本展は国立美術館キャンパスメンバーズ制度による割引適用はございません。
  • ※中学生以下は無料。
  • ※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。「日時指定券」や整理券のご利用は不要です。会場係員にお声がけください。

出典:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020london_gallery.html

 

混み具合・撮影スポット

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平日の午後に見てきました。日時指定制となったからか、展示会場内はそこそこの人出に収まっています。

 

ただしガラガラというわけではなさそうです。指定入場時間は30分も受けられているのですが、指定時間の最初の方は混む傾向にあります。

例えば14:00入場(14:30最終)の場合だと14時に人が集中します。

 

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入場まで少し待つことも。昨年のフェルメール展ほどではないですけどね〜。

 

撮影スポットは展示会場入口手前の広場にて。

 

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音声ガイドは古川雄大さんという俳優の方。朝ドラ『エール』で話題の人です。

ちょっとわたしは存じ上げませんでした…

 

ガイドはマメ知識豊富なのがいいところでした!とても分かりやすく借りる価値があります!

 

図録について

開催されていると言っても、なかなか都内に行きづらい人もいるかもしれません。

下の感想を見てってください。

それか、外部サイトで図録を購入できます!

 

maruyodo.jp

 

現在に限らず過去の展示の公式図録もオンラインで買えてしまう素晴らしいサイトがありました。

開催が延期期間だった頃、待ちきれずにこちらのサイトでロンドン・ナショナル・ギャラリー展の図録を購入しました!

 

送料がちと高いがしょうがない。

 

↑表紙違いのバージョンが発売されたみたいです。

 

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かなり分厚いです。ミニ図録もありますので良かったらぜひ。

 

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感想

まずはクリヴェッリの大迫力絵画に驚く

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カルロ・クリヴェッリ『聖エメディウスを伴う受胎告知』1486年 図録を撮影

入口入ってすぐ目に付くクリヴェッリの傑作は、今回の目玉。

何より驚いたのは207 x 146.7 cmという大きさです。

そこに遠近法による立体感も相まって、迫ってくるものがありました。

 

装飾がとても細かく、いつまでもみてられる感じです。だいぶ報酬が高かったんでしょうね。相当気合入ってます。

足元の瓜とりんごのアクセントも効いています。

音声ガイドでは画面上の登場人物についての解説が聞けます。

 

個人的に見て欲しいのは、この絵のですね。

壺、草花、ドラゴンの模様が彫られた見事な額はこの絵にぴったりです。

 

フェルメール『ヴァージナルの前に座る若い女性』の背後

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ヨハネス・フェルメール『ヴァージナルの前に座る若い女性』1670-72年頃 図録を撮影

相変わらず綺麗なフェルメール・ブルーでした。

ただ正直他の絵画のレベルがすごくて、フェルメールにしてはやや霞むかな。

 

どちらかというと絵の意味に価値があると思います。

 

絵の内容としては、パッと見た感じ、演奏中にふと手を止めただけの場面に見えますよね。しかしその背後に飾られてある絵画の内容がわかると途端に意味深になります。

 

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ディルク・ファン・バビューレン『取り持ち女』1622年頃 ボストン美術館蔵 wikipediaより。※この絵画は展示作品ではありません。

登場人物は左から娼婦、客、仲介の取り持ち女です。

カラヴァッジョに影響を受けた作者だから、だいぶ濃いテイストの作品ですね。

 

フェルメール作品では全体の雰囲気と合わせるために地味な色合いに隠されていますが、構図はまさしく『取り持ち女』です。

 

ヴァージナルを弾くこの女性は娼婦?とか、普通じゃない待ち人が来た瞬間?とか、そんな想像が沸き起こる絵画ですね。

フェルメールは意外と官能表現をほのめかすのがお好きなんです。

 

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ヨハネス・フェルメール『ヴァージナルの前に立つ女』1670-72年頃 wikipediaより※この絵画は展示作品ではありません。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所有するフェルメール作品のもう一つ『ヴァージナルの前に立つ女』。

この絵と比べると、若い女性バージョンは部屋が薄暗くて綺麗じゃないし、ヴァージナルは白いシミだらけだし。比較するとより怪しげな感じが際立ちますね。

  

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なんというか、すっごい微妙なリアクションなんですよね。

「あっ、来た!」というよりは「来たね・・・」って言いそうな。

ちなみに女性の右横にある文字はフェルメールのサイン。Vermeerをアナグラムにしたものです。

 

表情に乏しいけど微妙な仕草を秘めた女性を描かせたらフェルメールが一番だと思います。この辺も日本人が好む理由の一つかな。ぜひ注目してください!

 

ヴァン・ダイクからゲインズバラへ。トレンドの変化

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アンソニー・ヴァン・ダイク 『レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー』1635年頃 図録を撮影

人物を実物以上に美化するのが得意?な売れっ子肖像画家ヴァン・ダイクの傑作。

ヴァン・ダイクはドレスの絹の滑らかさとか、クルンクルンな髪の毛の艶とか、滑らかなものの描写に関しては、美術史全体においてもレベルが高いなと感心しました。

 

これは実物を見なければわからないレベルの微妙なところですね。なんとなく違うのです。

 

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トマス・ゲインズバラ『シドンズ夫人』1785年 図録を撮影

当時最高の舞台女優を最高のポートレートに仕上げたゲインズバラの傑作。

彼独特のブルーが混じる衣装と背景の深い赤。色彩と端正な顔立ちの描写が両立する相当にレベルの高い作品です。こんなのがゴロゴロいるからこの展示はすごい。

 

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拡大してみると、衣装の縞模様の描写はかなりラフなんです。

でも、若干崩して書くことで生地の柔らかさが表現できてます。

全体をかっちり描いたヴァン・ダイクに比べて、こういう速描き的な技術が見られるのは時代の変化の証ですね。

 

風景画もレベルが高い。有名大家からマイナー画家作までどれもかなりの力作

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カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)『ヴェネツィア:大運河のレガッタ』1735年頃 図録を撮影

イギリスの資産家の子息が、大学の卒業旅行にイタリアの名所を巡るという流行があったそうです(グランド・ツアー)。

その際にお土産として、カナレットの典型的なヴェネツィア風景画が人気だったとか。

 

この絵はお祭りでのボートレースの一場面を描いてます。

人を小さくびっしりと書き込み、建築物を壮大に見せるワザ、そして巧みな遠近法。

この2つの技術に優れていたのが人気の秘訣だったのではと思います。

若干景観を見栄えのために歪めて描いたのもご愛嬌?

 

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ヤーコプ・ファン・ロイスダール『城の廃墟と教会のある風景』1665-70年頃 図録を撮影

オランダの大風景画家ロイスダールは前々から好きな画家でしたが、この絵はかなり衝撃的でファンになりました!

 

煙のように生き生きとした雲も好きだし、光と影を丁寧に配置して遠近感を出す手法は感心させられます。

『城の廃墟と教会のある風景』はロイスダールのそういった特長が遺憾無く発揮されています!

特に遠くにほんのりと光が当たって見える風車の描写が好きです。上の写真ではイマイチ伝わりきれないかもしれません。これはぜひ実物を。

 

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クロード・ロラン(本名クロード・ジュレ)『海港』1644年 図録を撮影

風景画家の地位を築いたクロード・ロラン。

繊細な霞みのかかった夕暮れの空気感が素晴らしい。

 

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ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー『ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス』1829年 wikipediaより

そのロランを師と仰ぐイギリスの大家ターナーの絵。師にならって夕日をバックにする構図をよく描きますが、作風は師匠とはだいぶ違います。

 

印象派のように絵の具を生に近い状態でキャンバスに置く感じです。上の絵だと夕日部分に絵の具の盛り上がりがちょっとあります。

それだけじゃなく、海の青い部分をはっきり濃い青で表現したり(夕暮れのオレンジとの対比を強調させる。色の分離)、船の影の部分が明るい赤褐色だったりと、まさしく印象派の先駆けを感じさせる大作ですね。

 

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ジョン・コンスタブル『コルオートン・ホールのレノルズ記念碑』1833-36年 図録を撮影

ターナーのライバル?コンスタブルの隠れた名作、これもすごかった…!

木肌や枝に細長く細かいハイライトが無数にあるおかげで、木の生命力を感じさせます。

このハイライトは白く塗ってるのかなーと思って近寄ってみたら…引っ掻いて削っていたんですね!ぜひ現物で確認を。

 

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フィリップス・ワウウェルマン『鹿狩り』1665年頃 図録を撮影

大家の風景画が並ぶ中で、比較的?マイナーな画家の作品も印象的だった作品がいくつかあります。

上のオランダ画家ワウウェルマンの描く狩りの様子もその一枚。

遠くに向かってなだらかに霞んでいく空気の描き方は、クロード・ロランに肉薄する技術レベルの高さを感じました。

主役の赤い服、中心の木の傾き加減など、工夫が散りばめてあって、見ていて飽きない作品だなあと思いました。

 

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ウィレム・ファン・デ・フェルデ(子)『多くの小型船に囲まれて礼砲を放つオランダの帆船』1661年 図録を撮影

マストの織りなすリズムが見ていて心地よい作品。

ファン・デ・フェルデもオランダの当時人気だった画家だそうです。17世紀のオランダって本当に黄金時代だったのですね〜!

 

スペインの画家も侮れない

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バルトロメ・エステバン・ムリーリョ『幼い洗礼者聖ヨハネと子羊』1660-65年 図録を撮影

これまでイギリスやオランダ画家のレベルの高さを伝えましたが、スペイン画家のレベルの高さも段違いです。

こちらはムリーリョ作の縦が165cmもある大絵画。ヨハネと子羊が暗闇からまさに浮かび上がるように描写されています。その明暗が見事。

 

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フランシスコ・デ・スルバラン『アンティオキアの聖マルガリータ』1630-34年

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展で一気にファンになったのがこちらのスルバランです!

とにかく色が綺麗。濃い藍色のローブの発色はかなり好きですし、マットでフラットな質感の古典絵画は今の時代に受けるんじゃないかなと思います。

 

調べてみたら、スルバランという人はカラヴァッジョ的なクッキリした明暗をよく描いたそうです。スカッとした黒の出し方に特長があると思います。

 

特別展の後はぜひ常設展も同時に見ていただきたいのですが、その大きな理由は、

 

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フランシスコ・デ・スルバラン『聖ドミニクス』1626-27年 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影

7/7に公開になったばかりのスルバラン作品がこれもまた見事だからです。

ちょっと上の写真だと反射しちゃってるのが残念ですね。実際は漆黒のローブが極めて鮮やかで、もうそれだけで見る価値があるのです。

 

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ディエゴ・ベラスケス『マルタとマリアの家のキリスト』1618年頃 図録を撮影

スペイン黄金時代の大家ベラスケスが若かりし頃に描いた秀作。

正直個人的に人物の描き込みはまだまだな感じを受けます。恐ろしくうまいと思ったのはテーブル上の静物。

 

ちょっと拡大してみます。

 

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魚の光り方、卵の殻の描写が凄まじかったです。

まず物をリアルに描く術が備わっていたからこそ、後々の生命力溢れる人物画が描けたのですね。

 

印象派の時代は印象派だけではない

イギリスと日本は同じ島国のせいか、好みもなんとなく似ています。

 

今回の展示で感じたのですが、イギリスにある絵画で、たくさんの人で賑やかな絵ってあんまりないですね。

カナレットは例外ですが、風景を壮大に見せるための記号として人間を描いてます。

一人二人の肖像画もしくは静物画が圧倒的に多い。

 

ロンドン・ナショナル・ギャラリー展で展示される19世紀の絵も、やはり静物画のレベルが高かったです。あとで紹介するゴッホのひまわりもその一つですね。

 

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ポール・ゴーガン『花瓶の花』1896年 図録を撮影

黄色をバックに鮮やかな花が美しい作品です。

タヒチ時代、すでにゴーガンの作風を確立した時期の作品にしては、細い線と素直な色彩で描かれていて異質な雰囲気です。

そう思うのと同時に、ルドン作品を彷彿とさせました。

 

ゴーガンとルドンって交流があったのかなと思って図録を読んだら、結構な仲良しだったようです。

 

ルドンが黒の時代を抜けて色彩を多用したのは1900年を過ぎてから。となるとゴーガンのこの絵を見て影響を受けたのかなと想像してしまいますね。

 

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アンリ・ファンタン=ラトゥール『ばらの籠』1890年 図録を撮影

ファンタン=ラトゥールは19世紀を生きながら、印象派とは違って落ち着いた花の絵を得意とした画家です。

控えめな色彩と柔らかそうな花びらの描写は心惹かれるものがあります。

展示会のお土産コーナーでもこの絵をモチーフにしたグッズが人気のようでした。

 

常設展の方では、彼の妻の作品が展示されています。

 

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ヴィクトリア・デュブール(ファンタン=ラトゥール)『花』国立西洋美術館蔵 会場内で撮影

こちらも見ていてとっても癒される絵です。

旦那の作風にかなり似ているため、どれだけ指導が入ったのだろうかと思っちゃいます。

 

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クロード・モネ『睡蓮の池』1899年 図録を撮影

やはり印象派といえばモネ。こちらの絵は睡蓮シリーズの最初期の18点のうちの一つ。

実はその18点の中に箱根のポーラ美術館に所蔵されている『睡蓮の池』があります。

構図もほぼ同じ。

 

それにまつわる記事はこちらから。 

www.maru-shikaku.net

 

ゴッホ『ひまわり』は枯れかけの花が多い謎を考察

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フィンセント・ヴァン・ゴッホ『ひまわり』1888年8月 wikipediaより

展示会のラストはこちらの絵の特設ルームで〆です。

やはりすっきりとしたクリーム色でバランスよくまとめられていて、ゴッホ作品の中でも上位に入る人気なのはうなずけました!

なんというか、ゴッホの癖があまり強くなくて、心地いい絵なんですよね。

 

それでは以下、ゴッホの『ひわまり』に関する考察です。

 

1888年2月、ゴッホがパリから静かな南仏アルルに移り住んだ目的は、芸術家の共同体を作ることです。

半世紀前のバルビゾン派の画家たちが出世していったのを受けて、世界的な芸術共同体ブームが19世紀中頃に起きました。

 

この間のハマスホイ展でも解説があった、デンマークでのスケーイン派もその一つですね。

 

www.maru-shikaku.net

 

ゴッホは画家の中でもバルビゾン派のミレーを特に尊敬していたから、意気込みはなかなかのものだったと思われます。

 

5月にみんなで生活するための家を借りて、そこに飾るためにひまわりの絵をたくさん書こうと思ったらしいです。

ゴッホは驚異的なスピードで、8月のひと月の間に4枚のひまわりを描きあげました。ロンドン・ナショナル・ギャラリーのひまわりは4作目。

 

ゴッホ自身も、そしてゴッホの借りた家にやってきた唯一の画家・ゴーギャンもひまわりの連作の中でいちばんのお気に入りだったのがこの絵です。

 

ゴッホはいろいろと背景の色を変えたりして実験していましたが、確かに黄色でまとめたこの作品が繊細で好きです。

背景の色はフェルメールのよく使うイエローに似た素晴らしい黄色で特に好きです!早く現物が見たい・・・

 

その後も家いっぱいにひまわりを飾るために描きつづけようとしましたが、冬に移るにつれてひまわりが完全に枯れてしまい。

 

そこでゴッホは4作目のコピーを思いつきます。日本の宝、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(@新宿)に常設展示されているゴッホのひまわりを見てください。

 

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フィンセント・ヴァン・ゴッホ『ひまわり』1888年11月末-12月初旬頃 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 wikipediaより。※この絵画は展示作品ではありません。

ほぼ完コピです。色調はナショナル・ギャラリーのものより濃いめ、筆のタッチも荒いところを変えたのです。

 

なので、最悪ロンドンのひまわりを見られなくても、新宿に行けば似たようなものは見られます。

 

ちなみに日本のひまわりはオークション会社クリスティーズで入札されたもの。その日本法人の社長が書かれたオークションの裏側の話が最近本になりました。

 

美意識の値段 (集英社新書)


 

普段アートオークションなんてニュースの世界(最近だとサザビーズのバンクシー事件とか)でしか知らなかったから、裏側を知るだけでとっても面白かったです。

 

話を戻して・・・再びロンドンのひまわり。この絵の考察です。

 

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なんていうか・・・枯れかけばっかりじゃないですか?

かろうじて元気のある花って、中央一番右のやつぐらいで、あとは花びらが半分抜け落ちてたり、全部なくなってたり。

 

ひまわりはゴーギャンと仲違いする以前のもの。2人だけど立派な共同体を作る夢を抱いていた頃の作品だから、ポジティブな感情で描かれたはず。

 

なのに描かれる花の状態があんまり良くないのです。1作目から7作目まで全て。

 

昨年のゴッホ展では、パリ時代に描いた花の作品がありました(行ったのですが忙しくてまとめられずすみません)。

敬愛する画家・モンティセリの厚塗り技法を真似て描いた作品。その花はどれも生き生きとしていました。

 

ところがこのひまわりはどうしたのでしょうか。

 

調べても解答がないので、個人的な見解を書きます。

1つは、管理がいい加減説。でもひまわりって育てやすい花のはず。うーん。

 

2つ目は、色彩&タッチを考えて説。

 

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フィンセント・ヴァン・ゴッホ『麦刈る男』1889年9月 ゴッホ美術館 wikipediaより。※この絵画は展示作品ではありません。

ゴッホ作品には麦畑が頻出します。

その理由はもちろん農民を描くこともありますが、麦の黄色とオレンジのまとまっている感じが好きなんじゃないかと思うのです。

 

ゴッホは対比色(赤なら緑、青ならオレンジなど)を好んで使う画家です。

私自身、そのイメージが強かったのですが、同じくらい同系統の色でまとめるのもうまいな、しかも歳を重ねるごとに上手くなっていることに気づきました。

それでいてここぞという時の対比色が、後期の作品ほど冴えてるのです。

 

色調を考える上で、元気なひまわりだけではバランスが取れていないと考えたではないかと。

 

実際、枯れたひまわりの濃い色と、壁の淡いクリーム色が良いコントラストを生んでます。

 

タッチに関しても枯れた後の方が、ゴッホお得意のリズムが作りやすいのではと思います。

 

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この厚塗りもまた色の出方に影響してくるのです。タッチは実物で見るのが一番わかりやすいです!

 

最後に

 

だいぶ長くなってしまいました・・・1万字弱いったかな。

しかし語れるくらい超一流作品ばかりでとても楽しかったです!

いつも展示会を見るときは一時間ぐらいの鑑賞時間なのですが、ロンドン・ナショナル・ギャラリー展は2時間じっくり見てきました。

 

それに特別展だけで終わりにしてはいけません。

常設展は秋から長期休館に入ります。

2020年10月19日(月)~2022年 春(予定)

このチャンスに常設展もぜひ!

久しぶりに行ったら、いつの間にかイギリスの画家作品が充実してました。

 

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ダンテ・ガブリエル・ロセッティ『愛の杯』1867年 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影

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ダンテ・ガブリエル・ロセッティ『夜明けの目覚め』 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影

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ジョン・エヴァレット・ミレイ『あひるの子』1889年 国立西洋美術館蔵 会場内で撮影

 

イギリス関連でこんな記事もあります。

www.maru-shikaku.net

 

以上、コロナ対策をしっかりとして楽しんできてください。

それでは!

 

【余談】ロンドン・ナショナル・ギャラリーのユニークな成り立ちとユニークなエピソード

ここからは余談です(以前書いた内容です)。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの設立の経緯を調べたらちょっと面白かったので書きます。

 

 

イギリスは島国だからか、文化的にはイタリアのルネサンスの流れから取り残されていました。

その主な理由はやはり宗教にあると思います。イギリスは歴史的に国王とローマ教皇庁の仲が悪く、イタリアやその周辺国に比べてカトリックの影響が弱い国でした。

 

絵画はルネサンス辺りまでは宗教の教義を広めることが第一目的でしたから、総本山ローマのあるイタリアの画家たちがやはり貪欲に技術を磨き上げます。

 

必要は発明の母と言いますからね。

 

しかし宗教改革を機に肖像画や寓意画、そして風景画が人気になるにつれて、芸術不毛の地だったイギリスにも初の美術学校 ロイヤル・アカデミーが1768年にできます。

 

そうなると当然ながら、絵画史の浅いイギリスには、過去の優れた美術品を持つ美術館が必要との声が高まります。 

 

ロシアからイギリスへ亡命した銀行家アンガーシュタインのコレクションが死後、政府に買い取られたのをきっかけに、ロンドン・ナショナル・ギャラリーが1824年に開館しました。

 

その後、政治家、実業家といった絵画コレクターが国のためにと所有作品を寄贈して、ナショナル・ギャラリーの所蔵品は充実していきます

 

これが他国にはないユニークな現象です。ヨーロッパの美術館はたいてい王族のコレクションが源泉ですからね。

 

国の未来のために絵画が集まった結果、西洋美術史を学ぶ教育施設という位置付けになりました。

 

今回の展示でも、美術史を学べる作品のチョイスとなっています。パオロ・ウッチェロの描いた『聖ゲオルギウスと竜』という1470年頃の作品から始まり、ポール・セザンヌの『ロザリオを持つ老女』という1895-1896年頃の作品に終ります。

 

その差約400年

その間飛び飛びじゃなく、満遍なく作品が揃っての400年ですから、すごいですよ!

 

本腰入れて西洋美術史を学びたいなら、こちらの本をお勧めします。

 

カラー版 教養としてのロンドン・ナショナル・ギャラリー (宝島社新書)

 

 

『世界のビジネスエリートが身につける教養 西洋美術史』で有名な西洋美術史家・木村泰司さんの本。

読んでみましたが、超真面目な本です。少し気合いを入れる必要があります。

 

ページ数はそれほど多くなく写真もたくさんあるにも関わらず、これ一冊を読み込めば本気で西洋絵画史を語れるレベルになると思います。

 

話を戻しまして・・・ロンドン・ナショナル・ギャラリーは独特な発展ゆえに変なことも起こります💧

 

ヘンリー・テートという実業家が絵画をナショナル・ギャラリーへ寄贈しようとしたら、うちにはそれだけの作品を収納するスペースがありません!と断られました。仕方がないから、別館を造ってそっちに飾ることに(テート・ブリテン)。

 

ナショナル・ギャラリーって、最初期は上に出てきたコレクターのアンガーシュタインが持つ邸宅だったんです。

 

ペルメル街のナショナル・ギャラリーは常に入場客であふれており、人いきれで蒸し暑く、パリのルーブル美術館などに比べて建物の規模が小さかったこともあって、国を代表する美術館としては相応しくないのではないかという世論が高まった。しかしナショナル・ギャラリーの評議員に就任していたエイガー=エリスは、ロンドン中心部のペルメル街という場所が美術館の存在意義に正しく合致していると評価していた。後にペルメル街100番が地盤沈下を起こし、ギャラリーは一時的に105番に移設されたが、作家アンソニー・トロロープ (en:Anthony Trollope) は105番の建物を「薄汚く重苦しいちっぽけな建物で、素晴らしい絵画を展示する場所としてはまったく不適格だ」と酷評している。その後、100番、105番ともにカールトン・ハウス・テラスへと続く道路を敷設するために取り壊されることが決定した。

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/ナショナル・ギャラリー_(ロンドン)

 

このエピソード、めっちゃグダグダしてて面白い。笑

 

それで、現在のトラファルガー広場にあるナショナル・ギャラリーが建設されたわけなのですが、相変わらず狭くてさっきのテート・ブリテンの話。

 

さらに大風景画家ターナーが自身の作品を1000点以上遺産として寄こそうものなら、これも全部は入らないと諦め、油彩10点を除いて他は全部テート・ブリテンへ・・・。

 

最初から広めに造っておけよ!と言いたいところですよね。ただお金がなかった。それが唯一にして最大の理由です。

 

近年は1991年のセインズベリー棟の増築により多少は広くなったようです。無料で質の高い絵画が見られるということで、いつかロンドンに旅行したら絶対行きたい場所です。

 

ハマスホイとデンマーク絵画展の感想@東京都美術館

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こんにちは、まるしかです。

 

誰もいない室内のむこうに、こちらに背を向きピアノをひく孤独の女性は架空の存在だったかもしれない?

 

独特のモチーフに灰色の世界で再評価されている19世紀後半のデンマーク画家・ハマスホイの回顧展が12年振りに再開です!

 

初回の衝撃は今でも覚えていますし、国立西洋美術館の常設展に行くと、下の一枚がいつも素敵だなと思ってしまいます。

 

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『ピアノを弾く妻イーダのいる室内』国立西洋美術館蔵 図録を撮影

もちろんこの絵も本展で展示されています。この機会を逃しても、東京都美術館 (1/21-3/26) → 山口県立美術館(4/7-6/7)の展示を終えた後は再び上野に戻ります。

 

第2回目の回顧展となる「ハマスホイとデンマーク絵画展」では、ハマスホイのみならずデンマーク国内に着目し、デンマーク絵画の流れとハマスホイの関係にスポットを当てています。

 

独自に進化した19世紀のデンマーク絵画史を覗いてみると、ハマスホイは特異点だけれども、諸先輩の影響をしっかり受けているなという印象です。

 

まだ謎の多いハマスホイの新たな一面と、触れる機会がないデンマーク絵画を鑑賞できる貴重な機会をお見逃しなく!

 

 

展覧会概要

会期:2020年1月21日(火)~3月26日(木)
会場:東京都美術館
休室日:月曜日、2月25日(火) ※ただし、2月24日(月・休)、3月23日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日、2月19日(水)、3月18日(水)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:

当日券 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円


団体券 | 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生 1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上


※中学生以下は無料 *3月20日(金・祝)~26日(木)は18歳以下[平成13(2001)年4月2日以降生まれ]無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください

アクセス:JR上野駅「公園口」より徒歩7分

アクセスマップ 

出典:https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_hammershoi.html

https://www.tobikan.jp/guide/index.html

 

混雑具合

1/23(木)15時ごろに行きました(インフルもあり記事にするのが大幅に遅れてしまいました💧)

 

チケット売り場は待ち時間なし、中もそこそこ空いていました。

作品点数が全部で86点とそこまで多くなく、 大きめの絵画が多いため、もともとゆったりした雰囲気で見ることができます。

 

↑こんな感じの広々としたレイアウト。 

 

じっくり見て、絵の状況に身を任せたほうがいい絵画が揃ってます。北欧のヒュゲ(くつろいだ、心地いいという意味)の精神で一枚一枚を長い間眺めてみて下さい。

 

絵画に没入するのって、とっても楽しいですから!

 

今は比較的空いていますが、会期の終わり頃、特に暖かくなる3月頃になると春休みと重なり混み始めますので、注意。

チケットに関してはJR上野駅構内公園口改札の手前にあるチケットショップでも扱ってます。

 

上野公園内のどの美術館のチケットも買える便利なところ。知名度が低いのかだいたいすぐ買えます。当日券はこっちで買うのがベターです。

 

撮影スポット

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東京都美術館恒例で、展示の最後に撮影用のパネルがあります。

 

感想

19世紀デンマーク絵画100年の大まかな流れを予習しましょう

ハマスホイに至るデンマーク絵画史は19世紀、一気に花咲きました。絵画どころか音楽、文学、哲学など芸術全体が盛り上がったのです。デンマーク黄金期と言われます。

 

文学では『みにくいアヒルの子』『マッチ売りの少女』『雪の女王(『アナと雪の女王』はだいぶ改変されていますがアンデルセンの童話が元)』など、童話文学の王・アンデルセン(1805-1875)。

 

哲学では実存主義で『死に至る病』の著者・キルゲゴール(1813-1855)。2人ともなんとなく知っている方は多いはず。

 

文化的な爆発のそもそもの始まりは、デンマークの国家情勢にありました。

 

戦争による出費がかさみ、1813年、デンマークは国家破産、その後1830年頃まで経済危機に陥ります。

 

そんな逆境に置かれたデンマーク人は底力を見せます。戦後の日本人のようですね。苦難を乗り越えようと中産階級が頑張り、その恩恵を得ながら芸術活動は活発になります。

 

デンマーク黄金期の絵画分野の始まりはエガスベア(1777-1867)でした。作例をネットで見ると素晴らしい人なのですが、なぜか本展ではエガスベアの絵が全くありません。理由はわからないけど、そこが惜しいですね。

 

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クリストファ・ヴィルヘルム・エガスベア『コロッセオ第三層の北西部にある三つのアーチからの眺め』デンマーク国立美術館蔵 wikipediaより ※本展には展示されていません。

 

ナポレオンの絵で有名なフランスの画家・ダヴィッドから指導を受けた新古典派主義の画家です。作風は18世紀的だから省かれた?

 

エガスベアの弟子、そのまた弟子に至る系譜が19世紀デンマーク絵画の流れであり、「ハマスホイとデンマーク絵画展」のメインテーマとなります。

 

その辺りの話は後々書くとして・・・本展に出てくる著名な人物を時代順に簡単にまとめます!

 

  • エガスベアの生徒 (1830-1840年頃):クプケ、ハンスン
  • その一つ下の世代 (1840-1850年頃):ロンビュー、スコウゴー
  • スケーイン派 (1880-1890年頃):ミケール・アンガ、クロイア、ヴュルク、ヨハンスン、ボウルスン
  • ハマスホイとその仲間 (1890-1910年頃):ハマスホイ、ホルスーウ、イルステズ

 

こんな感じです。10年単位で世代が変わっていくのが、時代のめまぐるしさを語っていますね。

 

時代順に展示されていますので、ハマスホイは最後の章で出てきて多少じれったいかもしれませんが、焦らずじっくりいきましょう。

 

 

デンマーク黄金時代・・・?

本展の第1章はエガスペアの生徒、その一つ下の世代の画家たちのご紹介。

 

wikipediaにもデンマーク黄金時代として紹介されている19世紀前半の期間に活躍した画家たちですが、正直、個人的には黄金時代・・・そこまで言うか?と感じました。

 

どっちかというと、1850年以降の流れの方がデンマーク絵画は熟成されている気がします。絵画に限らず、その他の芸術文化を含めての評価ということなんでしょうね。

 

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クレステン・クプケ『カステレズ北門の眺め』1833-34年 ヒアシュプロング・コレクション 図録を撮影

 

エガスベアの代表的な弟子・クプケを始め、この頃のデンマーク画家は戸外で風景を描き始めます。まだ19世紀後半に盛んになる印象派の色彩革命は起きていませんが、ロマン主義的なタッチの勢いを残した作風です。

 

ロマン主義と印象派の間となる1850年前後のアート界は世界的にも曖昧な期間なのですが、クールベを代表とする写実主義と被るでしょうか。

 

確かに風景画はいいものがありますが、デンマークの個性が発揮されているかというと疑問です。

 

ただし気を引く作品があることも事実です。

 

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コンスタンティーン・ハンスン『果物籠を持つ少女』1827年頃 デンマーク国立美術館蔵 図録を撮影 

 

コントラストの低い繊細な肖像画。黄土色と暗緑色の混じった背景が絵画全体の雰囲気を決めてます。

 

この絵を見ると、ハマスホイの控えめな色彩感覚に近い気がします。実際、ハマスホイが所有した絵画でした。影響を受けたのは間違い無いですね。

 

スケーイン派の光の表現

デンマーク最北端の海辺の町スケーインに暮らした画家集団のことをスケーイン派と呼びます。アルファベットではSkagenと書き、時計で有名なスカーゲンはこの町からインスパイアされたそうです。

 

1800年代後半はフランスのバルビゾン派(これもパリ郊外のバルビゾンという地に集まった、ミレー、ルソー、コロー、ドービニーなどの画家集団の一派)の成功に便乗しようと、各地で画家の共同体ブームが起こります。

 

バルビゾン派のデンマーク版がスケーイン派で、スケーインの漁師町の風景を書き残しました。

 

展示会で印象に残ったのは、次の3点の絵画です。

 

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ミケール・アンガ『ボートを漕ぎ出す漁師たち』1881年 スケーイン美術館蔵 図録を撮影

 

縦120cm、横183cmの大画面で迫力ある絵です。

黄色い服は救命胴衣とのことで、右端に見守る市民を入れることで緊迫感が溢れてきます。

 

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オスカル・ビュルク『遭難信号』1883年 デンマーク国立美術館蔵 図録を撮影

こちらの作品は外で助けを求める合図に気づいた家族の様子。このあたりの海は出るのも命がけだったのでしょうか?

窓から入る光が大人二人の間を通って子供へ。その手を伝って食べ物へ移る光の導線が見事です。

 

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ピーザ・スィヴェリーン・クロイア『漁網を繕うクリストファ』1886年 スケーイン美術館蔵 図録を撮影

教師としてハマスホイを指導したクロイアは漁師の日常を描きました。漁網を繕っている後ろ姿。この絵とか、

 

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ヴィゴ・ヨハンスン『台所の片隅、花を生ける画家の妻』1884年 スケーイン美術館蔵 図録を撮影

この絵もそうなんですけど、室内にいる後ろ姿の人物という構図は1880年くらいからデンマーク絵画で頻出します。

 

つまりハマスホイの後ろ姿の人という構図自体は、先輩から受け継がれているものとなりますね。

 

印象派から色彩表現を学ぶ

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ティーオド・フィリプスン『晩秋のデューアヘーヴェン森林公園』1886年 デンマーク国立公園蔵 図録を撮影 

後期印象派の巨匠ゴーギャンはデンマーク人女性と結婚しました。画家を目指すも売れず、奥さんは故郷のコペンハーゲンに帰ってしまいます。

「実家に帰らせて頂きます」宣告をされたゴーギャンは仕方なくコペンハーゲンで仕事をし、絵を描きます。

 

あまり個性がなかった時代のゴーギャンでも、印象派の手法はその地で出会ったフィリプスンに教えられました。その結果が上の絵です。

おそらく実際の風景はもっと土気色なのだと思われますが、原色を多用しています。

 

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クレスチャン・モアイェ・ビーダスン『花咲く桃の木、アルル』1888年 ヒアシュプロング・コレクション 図録を撮影

アルル時代のゴッホの友人だったのがビーダスン。隣同士で桃の木を描いたのだそう。

 

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ヴィゴ・ビーダスン『居間に射す陽光、画家の妻と子』1888年 デンマーク国立美術館蔵

上のビーダスンとは違う人物。よく晴れた日のコントラストの高い室内画です。ハイライトの表現はかなりレベル高く面白い絵ですね! 

 

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ユーリウス・ボウルスン『夕暮れ』1893年 ラナス美術館蔵 図録を撮影

正直この展示で一番綺麗だなと思った絵です!長い間ぼーっと眺めてしまいました。

おぼろげな輪郭にオレンジの光が優しい。異国の風景ですけど郷愁あふれる感がすごくて、胸がジーンとしてしまいました。。。

 

写真ではうまく表現できなかったですね〜。実物はもっと素晴らしい絵ですので是非現地で😌

 

ハマスホイの仲間たち。垣間見る構図の安心感について

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ラウリツ・アナスン・レング『遅めの朝食、新聞を読む画家の妻』1898年 スウェーデン国立美術館蔵 図録を撮影

レングさんはハマスホイと直接の接点があったかわかりませんが、この絵を見てわかる通り、日常風景を垣間見る構図です。

 

垣間見る構図は日本人に人気のフェルメールでもよく見られます。それは構図のせいじゃないかとわたしは思うんですよね。

 

なんか、こちらを見てくる肖像画ってこちらも緊張して、もぞもぞする感じになりませんか??

 

その点こっちを見ない、もしくは後ろを向いている人物画はじっと眺めても楽というか安心というか。

 

この感覚はフランス以南のヨーロッパ人は薄く、逆に北欧の人は鋭敏なんじゃないかと思うのです。そこが日本人の感覚と合ってるんじゃないでしょうか。

 

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ビーダ・イルステズ『縫物をする少女』1898-1902年 リーベ美術館蔵 図録を撮影

ハマスホイの義理の兄イルステズは露骨にハマスホイの影響を受けてます。

描かれたものは直線で表されるものが多く、本棚、額縁、窓など水平垂直を強調するアイテムだらけです。その中で女の子の丸みが強調される対比ですね。

 

女の子の髪の毛の柔らかい表現が好きな絵です。

 

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カール・ホルスーウ『読書する少女のいる室内』1903年 デンマーク国立美術館蔵 図録を撮影

ホルスーウはハマスホイの学校時代の友人。この絵を見るとごちゃごちゃ密度の高い家具の配置が、現実味溢れてます。

 

ちょっと男のわたしはわからないですけど、お下げが片方だけ肩にかかっている状況って気にならないんですか?

それだけ集中してるのかなと思っちゃいました。

 

ようやくハマスホイ作品です! まずは彼のある行動が謎すぎる・・・

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『アキレウスに懇願するプリアモス(トーヴァルスンによるレリーフの模写』1880-84年 マルムー美術館蔵 図録を撮影

学生時代の作品、デンマーク人彫刻家トーヴァルスンの作品の模写です。レリーフを模写するという発想が珍しいですよね。

 

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『ルーブル美術館の古代ギリシャのレリーフ』1891年 ニュー・カールスベア美術館蔵 図録を撮影

新婚旅行にパリに行って、模写したのがこれ。

えっ!?と思いませんか?

 

ルーブルなんてあんなに大傑作のオンパレードなのになぜこれを選んだ?

 

おそらくはレリーフの低コントラスト陰影の美しさや明るい土色の表現、細かいタッチを研究するためなのでしょうが、そういうところが彼の個性につながったのだろうし、興味深いですね。

  

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『ローマ、サント・ステファーノ・ロトンド聖堂の内部』1902-03年 ブランツ美術館蔵 図録を撮影

 

イタリアに3度訪れたハマスホイが同地で描いた唯一の油彩画

図録p.142より

 

図録では上のようにさらっと流してますけど、これもかなりツッコミどころがあります!笑

 

さらにこのサント・ステファーノ教会に飾られている絵はキリスト教徒の殉教画(ここでは宗教迫害で殺される様子)がグロテスクで様々な拷問の絵が描かれてあるそう。

参考:https://shin-nikki.blog.ss-blog.jp/2017-08-16

 

そっちはスルー?ハマスホイは謎の多い人ですね。

 

風景画もかなりいい!!

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『ロンドン、モンタギュー・ストリート』1906年 ニュー・カールスベア美術館蔵 図録を撮影

 

3ヶ月滞在したロンドンで描いた絵が、この絵ともう一点だけ。霧がかった風景の表現は流石の一言。かなり好きな絵です😊

 

これも謎のチョイスですが、彼は見慣れた風景じゃないと描かなかったらしいです。

こだわりの強い人なんですね。

 

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『若いブナの森、フレズレクスヴェアク』1904年 デーヴィズ・コレクション 図録を撮影

こちらはデンマークの風景。この絵もいいんですよね!褪せた緑の表現はコローに次ぐレベルじゃないでしょうか。

 

ハマスホイはこの他にも多数の風景画を描いていますので要CHECK!

 

室内画。彼の求めるものは多くない

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『室内』1898年 スウェーデン国立美術館蔵 図録を撮影

ようやく室内画の出番です。奥さんのイーダと思われる女性と簡素なセッティングという室内画は、ハマスホイの十八番であり、執着したテーマと言えます。

 

この絵の訴えはかなりシンプルではないかと。つまりテーブルクロスの折り目が全てです。それによる奥行き感の演出ですね。

 

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『ピアノを弾く妻イーダのいる室内』1910年国立西洋美術館蔵 図録を撮影

いい絵ですよね!ハマスホイの特徴あふれる絵が日本にあるなんて、とても幸運なことです😊

部屋の窓を開け放って奥に人物を置く構図もハマスホイ作品によく見かけます。

 

これも狭い表現になりがちな室内画に奥行きを与えるためだけに、このような配置にしているのだと思われます。

 

前景はお盆のエッジにハイライトを入れるだけで際立たせてます。こういうところはうまい。

次の絵にもお盆が入ってます。便利な小道具として使ってたんでしょうね。

 

ハマスホイの繊細な色使い 

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『背を向けた若い女性のいる室内』1903-04年ラナス美術館蔵 図録を撮影

お盆の斜めの線が印象的。

 

スクリーンショット

こちらの絵、三分割の線を引くと構図としては基本にド忠実です。

 

色味について。

だいたい一流の画家というのは得意な対比色を持ってます。

 

  • 暖色:赤、橙、黄色
  • 寒色:青、緑、紫

この組み合わせですね。印象派以降は得意な色がとてもわかりやすく現れます。

 

 

ハマスホイは寒色に珍しく紫を多用する画家です。彼の描く絵のほとんどは、わかるかわからないかぐらいとてもうっすらと紫がかった灰色を影の色として使っていますが、上の絵は珍しく色味のある紫を壁に使っています。

 

そこからチラチラ見えるクリーム色が彼の技術です。

 

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『室内ーー陽光習作、ストランゲーゼ30番地』1906年 デーヴィズ・コレクション 図録を撮影

上の絵は写真の色味が実物と違くてすみません、実際はずっと黄色い絵ですが、影の部分は紫がかった灰色です。

 

ハマスホイのクリーム色は緑がかったものから赤みのかかったものまで、幅広い色調を自在に使い分けています。レリーフの模写で培ったものでしょうか。

 

紫と同じく、ほとんど灰色がかって目立ちませんが、彼の一番得意な色は間違いなく黄土色です。

 

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ヴィルヘルム・ハマスホイ『クレスチャンスボー宮廷礼拝堂』1910年 スウェーデン国立美術館蔵 図録を撮影

ここまでの説明を読んだあなたは、一見灰色に見えるこの絵も、印象派的な粗めで細かいタッチの中に非常に繊細な色が見え隠れしてることに気づくはず。

 

最後に

ハマスホイとデンマーク絵画展はデンマーク絵画の歴史がわかる展示でした!

同時に、歴史がハマスホイに与えた影響と彼の好みがわかったような気がします。

 

ハマスホイの模写の対象の謎については何か手記で理由が明らかになっていればいいのですが・・・どういう意図があるんだろうと考えてしまいます。

有名どころの絵画を避けたのはなぜ・・・?わからないならわからないで、想像が膨らんで面白いですけどね。

 

次の回顧展はまた10年後?とにかく滅多にない機会ですので行ってみてはいかがでしょうか。それでは!

 

ハプスブルク展の感想@国立西洋美術館

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こんにちは、maru-shikakuです。

 

ハプスブルク家とは、ヨーロッパのほぼ全域を650年支配し続けた一族です。

 

なぜ長年支配を続けられたのか?拡大できたのか?

 

それは基本的に戦争によって領土を獲得したのではないからです。戦争は負けるリスクがあります。ハプスブルク家は必ず勝つ戦法を選びました。

 

政略結婚と子孫繁栄です。

 

莫大な財力と広大な領土を持つブルゴーニュ地方を結婚によって獲得したマクシミリアン1世から代々、この戦法を使って急速に領土を広げていったのです。

 

ハプスブルク家は権力を誇示するために、美術品を収集する趣味のある一族でした。この美術展はそのコレクションを一部公開するものです。

 

目玉はベラスケスの傑作、マルガリータ・テレサ。

 

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ディエゴ・ベラスケス『青いドレスのマルガリータ・テレサ』1659年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影 

 

そして歴代王・王女の肖像画です。

 

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ヴィジェ=ルブラン『フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793)の肖像』1778年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

肖像画については歴史を学びながら絵を見ると非常に面白いです。

もちろん、見終えた後に復習するのも楽しいです。

 

ハプスブルク展は西洋史と美術の関係を紐解く展示だったため、どうしても知識がないと記事が書けず、今まで以上に歴史について調べてまとめてみました!

 

是非この記事を参考に鑑賞してみてください。

 

 

概要

会期: 2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)

 

開館時間: 9:30~17:30 毎週金・土曜日:9:30~20:00

ただし11月30日(土)は17:30まで

※入館は閉館の30分前まで

 

休館日: 月曜日、(ただし、11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館)、11月5日(火)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)、1月14日(火)

 

観覧料金: 当日:一般1,700円、大学生1,100円、高校生700円

前売/団体:一般1,400円、大学生1,000円、高校生600円

 

※上記前売券は2019年8月10日(土)~2019年10月18日(金)まで販売。ただし、国立西洋美術館では開館日のみ、2019年8月10日(土)~2019年10月17日(木)まで販売。

※2019年10月19日(土)からは当日券販売。販売場所はこちらでご確認ください。 ※団体料金は20名以上。

※中学生以下は無料。

※心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。

出典:https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019haus_habsburg.html

  

混雑具合

10/19(日)15時ごろに行きました。

チケット売り場は5~10分待ちくらいの行列で、中も人は多いですが待ち時間はなく、広々としてて作品が見づらいほどではありません。

 

チケットに関してはJR上野駅構内公園口改札の手前にあるチケットショップでも扱ってます。

 

上野公園内のどの美術館のチケットも買える便利なところ。知名度が低いのかだいたいすぐ買えます。当日券はこっちで買うのがベターです。

 

撮影スポット

 

展示の入り口手前にあるホールに大きなパネルがあります。ここは撮影可能です。

 

撮影するなら、常設展はほぼ全ての作品が撮れます。

国内最高級の常設展です。特別展のチケットなら追加料金なしでみれます。

ぜひ寄ってみてくださいね。

 

参考記事

www.maru-shikaku.net

 

参考にした書籍 

これまでの美術展感想記事史上、一番勉強しました。笑

 

目的があると勉強も楽しくなりますね。ゴリゴリの理数系なわたしは基本的に感覚的にしか絵画鑑賞をしたことがなかったのですが、今回調べ物をして世界史の面白さがわかった気がします。感謝。

 

とはいえ結構苦戦しました。というのも、ハプスブルク家はまず代々の名前からして混乱します。

 

ブルボン王朝のルイ家のように数字で世代がわかるようになっていません。

 

マクシミリアン、フィリペ、カルロス、フェルディナントなど、種類がいっぱいあって、えっ、この人はどの時代の人だっけ?となんども思います。

国が変わると名前が変わったりすることもあり、かなりややこしい。

 

参考にしたのは偉大なるwikipedia、本展示会の図録、そして新書です。

 

図録はゴシック体の金文字にマルガリータ・テレサ、マリア・テレジアの超格好いい表紙です。

 

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また背表紙もかっこいいです。

 

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昔の図鑑ぽいですよね。

 

解説は詳細で読み応えがあります。当然、美術品の解説を重視しています。

このコレクションは誰のもので、その後どこに移されたか?など、美術品所蔵地の変遷も書かれています。戦争で一度他国に渡ってしまったものもあるらしいですね。

 

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図録で重宝したのがこちらのハプスブルク家家系図。パッとみただけでも複雑なことがわかりますよね。

※レオポルト1世の息子ヨーゼフ1世は、2番目の妻クラウディア・フェリツィタスとの子ではなく、正しくは3番目の妻エレオノーレ・マグダレーネとの子です(wikipedia調べ)。正確に書くとこの略図に収められないかもしれませんが、ちょっと間違ってる箇所もありました。 

 

図録の美術寄りに対し、歴史のつながりを重点にまとめたのが今回読んだ「ハプスブルク家(講談社現代新書)」という新書です。

 

 

ハプスブルクの歴史をわかりやすく紐解いてくれます。ご興味がありましたら是非。

 

感想  

収集の始まり

ハプスブルク家はマクシミリアン1世から美術品を収集します。最初は甲冑や工芸品がほとんどです。

西洋国立美術館特有の地下の大ホールに、巨大タペストリーと甲冑が並んであって、いきなりインパクトあります。

 

甲冑はこちらのデザインが気になりました。

 

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ヴィルヘルム・フォン・ヴォルムス(父)『ヴュルテンベルク公ウルリッヒ(1487-1550)の実戦および槍試合用溝付き甲冑』1520-30年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

フルーティングというひだが凄まじくかっこいいですよね。作る手間とコストのせいで廃れてしまった技法だとか。

実物はとても精巧にできてて見入っちゃいます。

 

何よりこの腰。メタボ腹には厳しいサイズですね。笑

  

変人ルドルフ2世が集めたコレクション

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ヨーゼフ・ハインツ(父)『神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(1552-1612))の肖像』1592年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

 

ルドルフ2世。政治的な手腕はイマイチだったものの、美術の目利きはあった変人です。

 

ハプスブルク家の苦労は領土や権力の拡大よりも維持にあったようで、近親相姦を繰り返さざるをえないのが悲劇でした。

その結果として夭折、病弱、精神疾患の子供が続出しながらも、なんとか血縁をつなぐ綱渡りの歴史です。

 

絵を見るとわかりますが、ルドルフ2世は極端な受け口が特徴的な人でした。こういう顔の人がハプスブルク家にいっぱいいます。

 

ハプスブルクコレクションはこの方の恩恵が多大にあります。皇位を利用して莫大な金額を美術品と美術収集室に費やしたルドルフ2世はデューラーやアルチンボルドを見出した人でした!

 

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ジュゼッペ・アルチンボルド『ウェルトゥムヌスとしてのルドルフ2世』1568年 スコークロステル城蔵 wikipediaより ※本展示には展示されていません。

 

アルチンボルドが描いたルドルフ2世。この絵も来ればよかったのにね。

 

そういえば去年来てました。見られなくて残念。

見どころ | 神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展 | Bunkamura

 

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アルブレヒト・デューラー『アダムとエヴァ』1504年 国立西洋美術館蔵 図録を撮影

 

デューラーはドイツの有名画家です。ドイツ人らしく非常に細かで正確な描写が特徴です。

特にお家芸の銅版画は書き込みがすごい・・・! 人体はコンパスでバランスを取ってます。

 

ルドルフ2世のお抱え画家でいいと思ったのは、先ほどの肖像画を描いたヨーゼフハインツ(父)。

 

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ヨーゼフ・ハインツ(父)『ユピテルとカリスト』1603年のやや後 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

光の捉え方がうまいです。どことなくグレコの高コントラスト画っぽい配色ですが、かたやスイス、かたやスペインの画家とはいえマニエリズムの絵画はだいたいこんな感じで当時の流行の色調なのでしょうか。

 

フィリペ4世といえばベラスケス。王女の絵は本物偽物が隣同士?

ベラスケスはスペイン・ハプスブルク家の王フィリペ4世に仕えた宮廷画家として有名ですよね。

 

フィリペ4世の娘マルガリータ・テレサは、近親婚の影響が見られない貴重な子で、父親に非常に可愛がられました。

その証拠にベラスケスに何度も肖像画を描かせてます。

 

わたしは昔、3歳のマルガリータ・テレサの肖像画を見たことがあります。

 

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ディエゴ・ベラスケス『薔薇色のドレスの王女』1653-1654年頃 ウィーン美術史美術館蔵 wikipediaより ※本展示には展示されていません。

 

遠近感のおかしな机に茎のない花瓶の花が添えられていて面白い絵だなと思いました。思えばわたしにとって絵画の面白さはこの絵をきっかけに目覚めたような。

 

『ラス・メニーナス』に描かれているテレサは5歳の頃。

 

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ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』1656-1657年の間 プラド美術館蔵 wikipediaより ※本展示には展示されていません。

 

ハプスブルク展で展示されているのは彼女が8歳の頃の肖像画です。

 

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ディエゴ・ベラスケス『青いドレスのマルガリータ・テレサ』1659年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影 

 

まだ見ぬ許嫁にして親戚のレオポルド1世へのお見合い写真的な意味で描かれました。

 

流行のドレスを利用した三角形の構図と奥行きの表現。

最小限にして最大限の効果があるハイライトの入れ方はベラスケスの得意とするところです。

 

なんとこの絵の右脇にはそっくりの絵があります。

ベラスケスの娘婿兼一番弟子の模写だそう。

 

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フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ『緑のドレスのマルガリータ・テレサ』1659年頃 ブタペスト国立西洋美術館蔵 図録を撮影 

 

この2枚を比べてみるとベラスケスの技が際立ちます。

ベラスケスは以前にも感想で書きましたが、肌に乗るピンクの表現がどの画家も真似できないレベルに達しています。

 

参考:プラド美術館展の感想@国立西洋美術館 - まあるい頭をしかくくするブログ

 

手をみると手っ取り早くわかります。

(手を見ればその画家の技量がわかると言ったのはピカソだったかな?)

 

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そもそも模写の方は不鮮明で質感が全然なく死んだような肌で、基礎技術からして差があるのですが、肌色の表現に見られる何気ない差が非常に意味を持ちます。

 

言い換えれば、ないと違和感を感じるのが一流の技術と言えるのではないでしょうか。

 

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ヤン・トマス『神聖ローマ皇帝レオポルト1世(1640–1705)と皇妃マルガリータ・テレサ(165 1–1673)の宮中晩餐会』1666年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影 

 

マルガリータ・テレサがレオポルド1世のもとへ嫁いだお祝いの晩餐会の様子です。

テーブルが綺麗な輝きに満ちているところが個人的に好みな作品です。

 

マルガリータ・テレサは6年間で6人の子供を産み力尽きて亡くなりました。ハプスブルク家の女性はそれはもう凄まじく大変なのです。その甲斐も虚しく6人全てが夭折。

 

フィリペ4世には子供が3人いましたが、次男プロスペロは夭折。長男カルロス2世は先天的な虚弱と精神疾患で跡継ぎが生まれず。勢力争いの末、スペインはフランスのブルボン家に渡ることとなったのです。

 

ハプスブルク家最高のコレクター・ヴェルヘルム

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ヤン・ファン・デン・フーケ『甲冑をつけたオーストリア大公レオポルト・ヴィルヘルム (1614–1662)』1642年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

先ほどのレオポルド1世のお父さんの弟レオポルド・ヴェルヘルム。

ややこしいですね。当時スペイン・ハプスブルグ領だったネーデルラント(今のオランダ・ベルギー)の領主。

 

この人は歴史的にさほど重要ではないみたいですが、集めた作品がハプスブルク・コレクションの大部分を占めるといっていいくらい、美術コレクターだったそうです。

 

天は二物を与えず、ルドルフ2世といい、政治的な能力と美的センスはなかなか両立しませんね。

 

ヴェルヘルムのコレクションの質はハプスブルク家で一番といえます。

 

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ティッツィアーノ・ヴェチェッリオ『ベネデット・ヴァルキ(1503-1565)の肖像』1540年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

ティッツィアーノ。これも手の表現がいい!

 

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ティントレット『甲冑をつけた男性の肖像』1555年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

ティントレット。さっきの自身の肖像画といい、甲冑がヴェルヘルムの好みだったのでしょうか。

 

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ヤン・ブリューゲル(父)『堕罪の場面のある楽園の風景』1612-1613年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

ヤン・ブリューゲル(父)最高の商業画家一族の一人。緑の鮮やかさがいい感じ。これは当時もだろうけど今でも売れる絵ですね。

 

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動物が可愛い。

 

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ペーテル・パウル・ルーベンス工房『ユピテルとメルクリウスを歓待するフィレモンとバウキス』1620-25年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

ルーベンスの工房作品(ルーベンスと複数人の画家が作品を手がける。ジブリみたいなもんです)。

 

とはいえルーベンスらしさが満載で、斜め線の多様と動きを追加、手足の線がが輪っかのようにつながる構図はやはり素晴らしいの一言。

 

ルーベンスがいかに斜め線で動きを表現したか、過去の記事も参考にしてください。

ルーベンス展の感想@国立西洋美術館 - まあるい頭をしかくくするブログ

 

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フランツ・ハルス『男性の肖像画』1634年 ブタペスト国立西洋美術館蔵 図録を撮影

 

フランツ・ハルス。

この方の描く人は基本ふざけてて、絵の評価より題材の面白さばかり目立ってしまいます。結果的にオランダ絵画展では添え物扱いでハルス作品が登場します。笑

 

しかし上のような普通の肖像画を見れば、ただの画家ではないなとつくづく思います。

こんなに生き生きとした顔を描ける人はそうそういません!

 

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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン『使徒パウロ』1636年? ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

レンブラント。

ハプスブルク展で一番印象に残った作品です。レンブラントは陰のグラデーションの出し方がとてつもなくうまくて、いつまでも見てられます。

 

フェルメールといい、黄金期のオランダ絵画の陰影表現はなんと細かいのでしょうか。

写真では表現しきれません。ぜひ実物を見て確認してください。

 

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ヤーコブ・ファン・ロイスダール『滝のある山岳風景』1670-80年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

ロイスダール。

この方の風景画は構図のお手本になるものばかりです。真横から滝を描くことで奥行き感が出てきます。

 

王家の肖像画

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マルティン・ファン・メイテンス(子)『皇妃マリア・テレジア(1717-1780)の肖像』1745-50年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

ハプスブルク家の女性といえば、レオポルド1世の孫娘マリア・テレジア。

 

ものすごくラスボス感漂わせている貫禄が示す通り、彼女は女帝としてハプスブルグ帝国の発展に寄与しつつ、同時に母としてマリー・アントワネットを含む16人の子供を産み育てた超人類です。笑

 

政治的には学校を作るといった教育制度や医療の進歩など、中世から近代への橋渡し的な役割を担いました。

 

紹介した『ハプスブルク家』の新書でも、マリア・テレジアの章は一番筆が乗ってます。ライバルとのにらみ合いなど面白い要素がいっぱいあるので、ぜひ読んでみてください。

 

 

これを読むと悲劇的な最後を遂げただけのマリー・アントワネットよりも断然小説やドラマの題材になりそうな人生を送っている方ですけど・・・どうして認知度が低いのでしょうか?

【追記】ブログ読者からこの件でコメントを頂きました(記事最後に掲載しています)。確かに逞しさが溢れすぎてて嫌厭されてるのかもですね笑。けれど今の時代、こういう女性の物語ってウケるんじゃないかな。どうでしょう、N◯Kさん??

 

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ヴィクトール・シュタウファー『オーストリア=ハンガリー二重帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ1世』1916年頃 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

フランツ・ヨーゼフ1世。

19世紀末から20世紀、大帝国で統治できた時代は過ぎ去り、ハンガリーやチェコといった国々が次々に独立運動を起こします。ほぼ形骸化したハプスブルク帝国で最後の皇帝として君臨されたお方。

 

時代の流れに逆らえるわけもなく損な役割。しかも、親族や跡継ぎが暗殺や自殺など次々と不幸な目に会う人生でした。

 

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ヨーゼフ・ホラチェク『薄い青のドレスの皇妃エリザベト(1837-1898)』1858年 ウィーン美術史美術館蔵 図録を撮影

 

妻エリーザベト。コルセットでありえないウエストなど、美への関心が高かった。

ハプスブルク帝国の一つオーストリア帝国はハンガリー人の独立を認め、オーストリア=ハンガリー二重帝国となりますが、エリーザベトのハンガリー好きが影響したのだとか。

最後は無政府主義者に暗殺されます。

 

不運な皇帝ヨーゼフ1世は人柄がよく、国民から人気がありました。

 

政治的には都市改革がうまくいっています。ウィーンにリンク通りという大通りを作ってそこに主要の文化施設を集め、国際都市としてのウィーンを作りました。

 

その辺のお話は夏に開催されていたウィーン・モダン展の感想でも触れました。

 

www.maru-shikaku.net

 

ウィーン・モダン展で学んだ歴史がハプスブルグ展で再び出てきた時、点と点がつながる楽しさを感じました。歴史って面白いと思った瞬間でした。

クリムト展といい、美術界の2019年は本当にウィーンの年でしたね。 

 

www.maru-shikaku.net

 

ハプスブルク展はウィーン美術史美術館からの作品がほとんど。その美術館もヨーゼフ1世の時代に建てられたものです。

 

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美術史美術館(図録を撮影)。生きてるうちに一度は行ってみたい憧れの場所です。

 

最後に

ハプスブルク家は西洋史としても、また美術史としても非常に影響力のある一族でした!

何度も言いますが歴史って面白いですね!

今後絵画を語る上でももっと勉強しなければなと思いました。

 

この記事では絵画に絞って紹介しましたが、工芸品や宝飾品なども多数展示されています。きらびやかなヨーゼフ1世のピストルが印象的でしたね。

 

そこも含めて大ボリュームのハプスブルク展、ぜひ行ってもらって、学びながら美術に触れる楽しさを感じてもらえたらと思います。それでは!

 

↓同時開催の美術展です。

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西洋国立美術館なら常設展もぜひ。 

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コートールド美術館展の感想@東京都美術館

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こんにちは、maru-shikakuです。

 

印象派の有名絵画ばかりの夢の展示がこの秋実現します!

というのも、ロンドンの超有名なコートールドコレクションが、美術館の改修工事に合わせて日本にやってくるわけでして。

 

中でもセザンヌのコレクションは世界的にみても一級品しかなくて、『カード遊びをする人々』『大きな松のあるサント=ヴィクトワール山』『アヌシー湖』といった代表作品が日本にやってくるのはすごいこと!

 

ただ、目玉はやはりマネ最晩年の傑作、『フォリー=ヴェルジェールのバー』ですね。TOP画像の絵です。なんとなく見たことがある方が多いはず。

 

とはいえこの絵にいろんな謎が散りばめてあるのは全く知らなかったですね。

他の名画も印象派特有の現実とちょっと違う工夫があって、本展示は画家の工夫した箇所についても詳しく解説するのが特長となっています!

 

きっと印象派の画家たちがやりたかったことが見えてくるはずです。

この記事ではその辺の考察を含めた感想を書いていきますね。

 

 

概要

会期:2019年9月10日(火)~12月15日(日)

 

休室日:月曜日、9月17日(火)、9月24日(火)、10月15日(火)、11月5日(火)

※ただし、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)、10月14日(月・祝)、11月4日(月・休)は開室

 

開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)

 

夜間開室:金曜日、11月2日(土)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)

 

観覧料:

当日券 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円

団体券 | 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生 1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円※団体割引の対象は20名以上

 

※中学生以下は無料

※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料

※いずれも証明できるものをご持参ください 

出典:https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_courtauld.html 

 

混雑具合

9/12(木)15:00頃に行きました。開催して2日目の平日ということもあって、余裕を持って見られました。

 

ただ、この秋の目玉の展示の一つというだけあって、日にちが経つにつれて混みますし、おそらく鑑賞に時間がかかるので流れが悪いかもしれません。

 

というのも、わたしはいつも40分ぐらいで展示を見終わるペースなのですが、コートールド美術館展は作品数こそ約60点と少ないものの、一つ一つの作品に力強さがあり、じっくり解説を見ながら鑑賞したため、1時間ぐらいかかりました。

 

土日はゆったり時間を設けたほうがいいかもしれませんね。

 

また、チケットを並ばず買う方法があります。上野駅構内、公園口改札手前に美術展全般の当日チケット売り場があります。そちらを利用するとスムーズにチケットが買えます。 

 

撮影できるスポット

東京都美術館恒例の展示の最後に撮影ブースが設置してあります。

 

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ルノワールの傑作『桟敷席』を一人掛けソファに座りながら。

なんでかというと、パネルをよく見ればわかりますが、この絵はコートールド邸でソファの上に飾られてあったからなんですね。

 

感想

コートールドさんの趣味は最初の方でわかる気がする

この展示は人口シルクで巨万の富を得たコートールドさん個人のコレクション展です。個人の収集品ですと、日本では国立西洋美術館の松方コレクションが有名ですね。

 

松方コレクションは相当な目利きの元に集められたようですが、コートールドコレクションも数は少ないものの一級品ばかり厳選されています。

 

一流が集まる中でやはり個人のコレクションということで、コートールドさんの趣味が目立つ気がします。

 

最初の方の展示でなんとなく傾向がつかめました。

 

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フィンセント・ファン・ゴッホ『花咲く桃の木々』1889年 図録を撮影

 

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クロード・モネ『アンティーフ』1888年 図録を撮影

 

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クロード・モネ『花瓶』1881年着手 図録を撮影

 

いずれも点描のように小さいタッチを重ねて絵を描いていく技法が見られます。展示の中には点描で有名なスーラの絵もいくつかありました。

 

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ジョルジュ・スーラ『クールブヴォワの橋』1886-1887年頃 図録を撮影

 

細かいタッチが好きといっても、そういう筆使いを多用したゴッホの絵が1点しかない。

 

セザンヌが好きな点からわかる気がします。あんまり色が派手すぎるのは好きじゃないんでしょうね〜。

つまり繊細なタッチの繊細な色使いが好み。日本人の感覚に近いですね。

 

コートールドさんは国の美術品購入にも関わったらしいですが、ゴッホ作品は渋めな黄色バージョンの『ひまわり』を選んだのも好みなのでしょう。

 

セザンヌを解説。こだわりの空気感、遠近法の鬼

コートールド美術館のセザンヌ作品は有名すぎるほど有名なものが揃ってて、今回の油彩画10点、これだけでセザンヌを語れちゃいます。

 

それでもセザンヌは分析が難しい部類の画家で捉えどころがありません。

それだけ奥が深いとも言えます。

 

ここでは曖昧ではありますが個人的なセザンヌの見方を教えます!

 

最初はアヌシー湖。セザンヌの中では派手めな色彩で非常に綺麗でした!

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ポール・セザンヌ『アヌシー湖』1896年 図録を撮影

 

ポイントはまず山の稜線ですね。45°の単純な角度で描かれています。

よく見ると手前の木の枝がほぼ同じ角度で伸びてます。葉っぱの描かれ方も斜め線の単純な形になってるのもあります。

 

湖面の反射を見ると垂直線が多用されています・・・ここまで書くとお分かりでしょう。

 

セザンヌは単純な垂直・平行・斜め線を画面の至る所に散りばめて絵の中でリズムを作っているんです。いわゆる空気感の一つ。

 

空気感をもたらすのは線だけじゃありません。

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ポール・セザンヌ『大きな松のあるサント・ヴィクトワール山』1887年頃 図録を撮影

 

ちょっと上の画像ではわかりづらいですが、全体的に緑色のくすんだタッチが全体的に散らばっています。空にも。

現実にはあり得ない場所に葉っぱをイメージさせる緑を置くことで、これもリズムをとってるのだと思います。

 

さらにリズムに関していえば、

 

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ポール・セザンヌ『ジャス・ド・ブッファンの高い木々』1883年頃 図録を撮影

 

この絵がわかりやすいです。今回の展示でかなり気に入った絵です。

拡大してみると、

 

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ポール・セザンヌ『ジャス・ド・ブッファンの高い木々』部分 図録を撮影

 

短冊形のタッチが重なっていてこれもリズミカル。

タッチ同士は時に離れていたり重なっていたりして複雑です。

また、同じ緑でも下地と色味や明るさを変えていて、これが微妙な立体感を生みます

 

セザンヌが狙ってる効果はどれも地味でさりげないものばかり。これが自然な印象を与えるとも言いますし、わかりにくいとも言えます。

 

さあ、超有名な『カード遊びをする人々』!

 

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ポール・セザンヌ『カード遊びをする人々』1892-1896年頃 図録を撮影

 

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↑図録にある絵の中には、透明の解説文があって、ページを重ねるとこのようにポイントでわかりやすく技法を教えてくれます。『カード遊びをする人々』はおかしい箇所ばかりなので解説にはもってこいですね。詳しくは展示もしくは図録にて。

 

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ポール・セザンヌ『カード遊びをする人々』部分 図録を撮影

 

立体感は色でも作られます。上の人物の肩あたりに後退色の緑と前進色の赤を並べて配置することで立体的に見せています。

 

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ポール・セザンヌ『キューピッドの石膏像のある静物』1894年 図録を撮影

 

これなんか立体的に見せるために背景の地面を超急斜面にしてます。

セザンヌは静物画に関しては結構挑戦的な構図で描いたりして、ピカソに影響を受けたと言われています。

 

セザンヌについてはまだ色々言いたいことはありますが、のちの機会ということでお次。 

 

ルノワールの傑作『桟敷席』も目玉の一つ。黒が鮮やか 

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ピエール=オーギュスト・ルノワール『桟敷席』1874年 図録を撮影

初期のルノワールは地味目な色の絵を描いてたんですね。この絵の黒の出し方はかなり驚きました。

後で書きますがマネも黒が大得意の画家です。そんなマネに負けないくらいの鮮やかな黒がとても印象的な作品。

 

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ピエール=オーギュスト・ルノワール『春、シャトゥー』1873年頃 図録を撮影

  

ルノワールはこの作品もよかったなあ。パステルチックな緑がいい。

 

コートールドさんはルノワールは初期(1880年以前)に頂点に達していたと評したようですがわたしもだいたい同じ意見です。

中期がちょっとワンパターン化していたと思います。最晩年は興味深い作品があったような。大規模なルノワール展をそろそろやってほしいですね。

 

マネの『フォリー=ヴェルジェールのバー』の不思議ポイント

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エドゥアール・マネ『フォリー=ヴェルジェールのバー』1882年 図録を撮影

 

相変わらずというか、見ての通り、マネの黒が映える傑作ですよこれは。

図録に何ページもの力の入った解説があるため詳しいところはそっちに任せますが、疑問を感じるポイントは一緒ですね。

 

この絵は中央の女性の後ろが一面鏡になっています。左手前のシャンパンは鏡合わせになっていることからわかります。

 

画面右に写っている女性が中央の方と同じなのですが、ちょっとずれすぎ。しかも、一緒にいる男性は真ん中の女性と向かい合うはずなのに鏡の中にしかいない。

 

この謎は『フォリー=ヴェルジェールのバー』が発表された当時も相当ツッコまれたようで、その時の風刺画で、男性がちゃんといるバージョンのラフ画が雑誌に掲載されたぐらい揶揄されたそう。

 

その真意はこの絵の発表後一年で亡くなったマネが墓場まで持って行ってしまったのですが・・・。おそらく3Dを2Dに落とし込むために、望遠レンズに見られる圧縮効果を使ったのでしょう。

ただ、鏡の中の男女の位置は相当書き直しがあったそうですね。

 

絵の重心としては相当右に寄っているように見えます。

↓美術館の見解では中央の女性を目立たせるためにあえてそうしたとのこと。

参考のジュニア用ガイド:https://www.tobikan.jp/media/pdf/2019/courtauld_jguide.pdf

 

それもあると思いますが、わたしはどっちかというと左にいる、一人だけ明るい色で描かれた小さな女性と釣り合わせたんじゃないかなと考えました。

 

この女性はマネのモデル兼友人兼愛人のメリー・ローランとされています。配色が浮いてますから、さりげなく特別な意味を持たせたのではと推察します。

 

その他の作品も力がある! モネ、ピサロ、ドガ、ゴーガン・・・

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クロード・モネ『秋の効果、アルジャントゥイユ』1873年 図録を撮影

 

綺麗な水鏡。モネは小舟に乗って絵を描いたそう。よく見ると絵の具を盛り上げたり引っ掻いたりして質感も重視しています。  

 

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カミーユ・ピサロ 『ラファイエット広場、ルーアン』1883年 図録を撮影

 

ピサロの作品はパステルパステルしてて、結構今の時代にウケるんじゃないかと思ってます。

 

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エドガー・ドガ『舞台上の二人の踊り子』1874年 図録を撮影

 

もちろんドガも持ってます!斬新な構図ですし、相変わらずドガの陰影は唯一無二。

彫刻や下絵が多数あり、ドガ好きも満足な展示です。

 

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ポール・ゴーガン『ネバーモア』1897年 図録を撮影

 

ゴーガン(ゴーギャンじゃなかったか?)コレクションのうち有名なのがこちらの『ネバーモア』。

 

ちょっと画像が派手目になっちゃいましたが、実際はもっと地味な色合いです。自然な色を好むコートールドさんはゴーガンがお気に入りだったそうですね。

 

最後に。印象派の傑作をじっくりと。 

冒頭も書きましたが一つ一つの絵の迫力がものすごく、かなり見応えがある展示です。

また、コートールド美術館は絵画研究施設にも使われているそうで、絵の分析がしっかりしてて面白いです。

 

この記事と現地の解説を読めば、より印象派について知ることができるんじゃないでしょうか。

 

個人的には展示を見てマネに興味が湧いてきました!

印象派の開祖でありながらなかなか渋い作風で人気になるかどうかわかりませんが、大回顧展やらないですかねー?

 

それでは。

 

【追記】ハプスブルク展感想アップしました。

 

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ウィーン・モダン展の感想@国立新美術館

こんにちは、maru-shikakuです。

 

ちょっと遅れちゃいましたが、先日クリムト展を鑑賞し、せっかくならとウィーン・モダン展にも今回行きました。

 

クリムト展はクリムト個人にスポットライトを当てた展示でしたね。 

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この記事で説明するウィーン・モダン展は、「クリムト、シーレ 世紀末の道」という副題が示す通り、世紀末ウィーンの2大画家の作品もあります。

が、内容としてはウィーンの文明開化時代の説明に重きを置いてます

 

歴史が結構面白かったです。

 

ウィーンの歴史について学ぶのは滅多にない機会ですし、クリムト展と合わせて鑑賞すると、より時代背景がわかってきます。行くなら2つともが大正解です!

 

それにクリムト作品はこっちのレベルも高い

 

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グスタフ・クリムト『エミーリエ・フレーゲの肖像』1902年 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

本展の目玉『エミーリエ・フレーゲの肖像』もそうですが(この作品は撮影可能)

 

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グスタフ・クリムト『愛(「アレゴリー:新連作」のための原画 No.46)』1895年 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

 

こちらの絵が一番良かった。シーレ作品では・・・長くなるので後ほど。

 

それでは、感想をどうぞ。

 

 

概要

会 期 2019年4月24日(水)~8月5日(月)
毎週火曜日休館
※ただし4/30(火)は開館
開館時間 10:00~18:00
※毎週金・土曜日は、4・5・6月は20:00まで、7・8月は21:00まで
※4月28日(日)~5月2日(木)、5月5日(日)は20:00まで
※5月25日(土)は「六本木アートナイト2019」開催にともない、22:00まで開館。
※入場は閉館の30分前まで
会 場 国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
観覧料(税込)
当日 1,600円(一般)、1,200円(大学生)、800円(高校生)
前売/団体 1,400円(一般)、1,000円(大学生)、600円(高校生)
  • 中学生以下および障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料。
  • 6月12日(水)~24日(月)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)
  • 前売券は2019年1月11日(金)~4月23日(火)まで販売。ただし、国立新美術館では4月22日(月)まで。
  • チケット取扱い:国立新美術館(開館日のみ。期間限定前売券は取扱なし。)、展覧会ホームページほか、主要プレイガイド(手数料がかかる場合があります。)
  • チケットの詳しい情報は、展覧会ホームページのチケット情報をご覧ください。
  • 団体券は国立新美術館でのみ販売(団体料金の適用は20名以上)。
  • 会期中に当館で開催中の他の企画展および公募展のチケット、またはサントリー美術館および森美術館(あとろ割対象)で開催中の展覧会チケット(半券可)を提示された方は、本展覧会チケットを100円割引でご購入いただけます。
  • 国立美術館キャンパスメンバーズ加盟の大学等の学生・教職員は本展覧会を団体料金でご覧いただけます。
  • その他の割引などお得な情報はこちらをご覧ください。
  • 会場での観覧券購入に次のクレジットカードと電子マネー等がご利用いただけます。
  • クレジットカード:UC、MasterCard、VISA、JCB、AMEX、Diners Club、DISCOVER
  • 電子マネー:Suica(スイカ)、PASMO(パスモ)、ICOCA(イコカ)等、iD その他:J-Debit、銀聯

出典:http://www.nact.jp/exhibition_special/2019/wienmodern2019/

 

音声ガイドは俳優の城田優さんが起用されています。

 

混雑具合

5/26(日)14:00頃に行きました。メインのクリムト展がやっぱり混んでるのに比べてこっちは控えめ。

会場は圧倒的に国立新美術館の方が広いので、ゆったり見れるのがいいですね。

 

感想

ウィーン前時代のセンスの良さ

1900年ごろにウィーンは文明の爆発とも言える文化の発展を遂げます。

そこでは絵画や建築を中心に作品がわんさか現れるのですが、19世紀中頃までの前時代は、絵画というよりは家具や小物にウィーン人のセンスの良さが現れていました。

 

例えば椅子。

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図録を撮影

今こんなの作ったらお値段いくらになるのでしょうね。特に一番右を見て欲しいのですが、シンプルなデザイン。これがウィーンの特徴です。

 

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図録を撮影

ティーポット。雑貨屋に売られてても違和感ないデザインですよね。

 

そしてウィーンの芸術といえば音楽。モーツァルトやシューベルトといった著名作曲家の肖像画がありました。

 

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ヴィルヘルム・アウグスト・リーダー『作曲家フランツ・シューベルト』1875年頃 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

シューベルトといえば丸眼鏡。こうやって眼鏡だけ見ると、かなーり奇抜なデザインです。 

 

前時代の絵画ではこの作品が印象的でした。

 

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フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー『バラの季節』1864年頃 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

写真としてもいい構図の絵ですね。

 

ウィーンの文明開化は皇帝ヨーゼフ1世なしでは語れない

皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の治世は1848-1916年。

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フランツ・ヨーゼフ1世 wikipediaより

この方はほんと偉大ですね。ウィーンの文化はヨーゼフ1世の治世期間に花開き、閉じました。

1918年にクリムト、シーレが亡くなり、絵画のメインストリームはピカソやマティスのフランス、カンディンスキーやクレーのドイツが残る。

 

絵画史はここら辺の栄枯盛衰のスピード感が凄まじい。それだけ時代が目まぐるしく変わっていった証拠でもあります。

 

話を戻して、皇帝ヨーゼフ1世はまず市街を守る城壁を取り壊し、交通の大動脈となるリンク通りを開通させます。

沿道に主要建築物が次から次へと建てられ、ウィーンは一気に大都市へ生まれ変わりました。

 

ヨーゼフ1世はなんだか気になってwikiで生涯を読んでいたら、かなり不幸な人でもあることがわかりました。息子は心中し、奥さんは暗殺されるという悲劇。

また、甥の皇位継承者(仲はよくなかった)も暗殺され、これをきっかけに第一次世界大戦が勃発する事態となります。

この継承者の名はフランツ・フェルディナント。同名のロックバンドはここからとったそう。特に深い理由はないらしいです。

 

皇帝の銀婚式にはリンク通りにて画家ハンツ・マカルト演出のパレードが開かれたそうです。

マカルトさんはクリムトの先輩にあたる大家です。絵画技術以上に社交が抜群に上手くて、画家にしてはかなりの地位と人気があった人みたいですね。 

 

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ハンス・マカルト『ドーラ・フルニエ=ガビロン』1879-80年頃 ウィーン美術館蔵 図録を撮影 

気に入った絵。ちょっとこの写真ではわかりにくいですが、実物はかなり彩度が高く、まっかっかです。他の絵もはっきりした色ですから、そういう画風なのでしょう。

 

生前はかなりの名声があったのに死没後は顧みらないのは、派手すぎる色使いが原因みたいですが、今こそ再評価してもいい画家なのではと思いますね。

 

クリムトのレベルの高さについて

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奥の左から2番目に座ってるのがクリムト。めっちゃラスボス感ありますね(^^;; 一人だけスーツじゃないし。

 

実際、分離派メンバーのカール・モルや

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カール・モル『朝食をとる母と子』1903年 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

クルツヴァイルの作品が展示されてましたが、クリムトとはやっぱりレベルが違う。

 

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グスタフ・クリムト『愛(「アレゴリー:新連作」のための原画 No.46)』1895年 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

 

図録のコントラストが現物とだいぶ違うため、出来るだけ似せるように補正しました。

 

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実際はこれくらい霞んでます。霞みから顔が浮き上がるような演出がとっても印象的でしたし、両脇の金箔のような帯が絵を引き締めてくれて、緩急の効果が出てます。

 

クリムトと他の分離派メンバーとどこに差が出るんだろう?と考えると、やっぱタッチ(筆の跡)が独特かどうかですね。

独特ってどういうこと?という質問に答えるのは難しいのだけれども・・・絵画の場合、色彩や構図以上にタッチが一流二流を分ける基準とだけ言っておきます。

 

シーレの独特さを考察

展示会の最後の方にようやく出てくるシーレ。

シーレもかなり独特のタッチです。

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エゴン・シーレ『自画像』1911年 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

 

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エゴン・シーレ『美術評論家アルトゥール・レスラーの肖像』1910年 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

 

シーレの作品を見てると、直線がいたるところに隠されてます。

上の2作では指が一番目立ちます。なんでこんな形なの。笑 

あとは首筋とか、手足とか・・・その隠された直線がなんともいえないリズムを醸し出してる。

 

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エゴン・シーレ『ひまわり』1909年 ウィーン美術館蔵 図録を撮影

シーレ作品では『ひまわり』が気に入りました。 もう枯れかけ?な感じですが、彼の基調カラーである褐色を使うとどうしてもこんな感じになっちゃうんですねー。

この絵も直線が映えてとてもいい!

 

シーレはいくつかありましたが、もう少し見てみたくなりました。

 

最後に

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フルの図録の半分以下の値段で買えたミニ図録。

図録はかさばってしょうがないので、こういうのは大歓迎。

 

絵画も粒ぞろいですが、ウィーンの歴史が学べるのもいいなーと思った展示会でした!

 

今回鑑賞して、この記事を調べ物をしながら書いてて思ったのが、第一次・第二次世界大戦あたりの画家事情って面白そうということ。戦争と画家みたいなタイトルの展示会があったらぜひ行ってみたい。

 

最初に書きましたが、クリムト展とセットで見るとより楽しめるので、どっちも行っちゃったほうが全然いいです。

 

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それでは!

クリムト展の感想@東京都美術館

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こんにちは、maru-shikakuです。

 

なんと東京では40年ぶりに開催されるというクリムト展、はっきり言って期待以上の展示でした!

 

こちらは本展示会目玉の『ユディトⅠ』。

 

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グスタフ・クリムト『ユディトⅠ』1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影

 

クリムトの「黄金様式」幕開けにして代表作です。当然これが一番の見所だと思うでしょう。わたしは思ってました。

 

しかし!圧倒的な傑作が待ち構えてます!

 

全長34メートルのコの字型大壁画『ベートーヴェン・フレーズ(複製)』。

 

複製でも金箔、真珠母貝、ガラス、鉱石をふんだんに使った豪華絢爛の代表作です。

 

よくもまあ美術館に入った。 全くのノーマークでした。なぜ宣伝でこれを押し出さないのか意味がわかりません。

 

『ベートーヴェン・フレーズ』を見るだけでも観覧料1,600円、いや、それ以上の価値があります!それくらい感銘を受けた作品です。

 

その作品を含め、クリムトはふんだんに金箔を使用した作風で知られてますが、思った以上に現物の質感がすごかった

 

それがスマホやPCの画面、印刷では表現できてないです!

直接見ることをおすすめします!

 

見応え十分な上にグッズもオシャレです。滅多にないクリムト展に行きそびれないように。

 

いつも通り感想を書きますね。

 

 

音声ガイド

音声ガイドは稲垣吾郎さん。

気合い入ってます。舞台でベートーヴェンを演じた過去がありウィーンつながりで選ばれたそうです。

 

意外にも音声ガイドは初挑戦のようですが、とても聞き取りやすく落ち着いたいつものいい声で解説してくれます。

 

BGMはウィーン関連のクラシックが流れており、先ほどのベートーヴェン・フレーズでは絵の題材になった、あの有名な第九が流れます。

 

第九を聴きながら『ベートーヴェン・フレーズ』を見たからこそ、ものすごく印象に残ったのかもしれません。よって音声ガイドは必携です。

 

概要

[会 期] 2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
[休室日] 5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、
6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
[開室時間] 午前9時30分~午後5時30分
※金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)
[会 場] 東京都美術館 企画展示室
〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36

 

観覧料※価格はすべて税込み。

  当日 前売 ・ 団体
一般 1,600円 1,400円
大学生・専門学校生 1,300円 1,100円
高校生 800円 600円
65歳以上 1,000円 800円
  
 

割引・無料のご案内

※5月15日(水)、6月19日(水)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料。当日は混雑が予想されます

  • 団体割引の対象は20名以上
  • 中学生以下は無料
    6月1日(土)~6月14日(金)は大学生・専門学校生・高校生無料
  • 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
  • 毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は当日一般料金の半額
  • 都内の小学・中学・高校生ならびにこれらに準ずる者とその引率の教員が学校教育として観覧するときは無料(事前申請が必要)

※ いずれも証明できるものをご持参ください

 

上野のれん会タイアップセット券

上野周辺の飲食店約100店が集う「上野のれん会」の加盟店から厳選した店舗の食事券などがついたお得なセット券です。

販売時期 2019年2月10日(日)〜7月10日(水)
価 格 2,000~3,000円
販売場所 セブンチケット

※ 店舗によって価格が異なります
※ 本券は「一般」用です
※ 食事券・引換券の使用は8月31日(土)まで

出典:https://klimt2019.jp/outline.htmlhttps://klimt2019.jp/tickets.html

 

混雑具合

4/28(日)14:00頃に行きました。

GW真っ只中の日曜日ということもあって、会場に入るまで10分待ち。

 

チケット売り場も並んでました。

このブログではなんども言ってますが、チケットは上野駅構内、公園口改札手前に美術展全般のチケット売り場があります。そちらを利用するとスムーズにチケットが買えます。

 

入るのに時間がかかりましたが、入った後は比較的すんなりみられます。大きい作品が多いからでしょう。

 

ここまで混むことはほぼないでしょうが、期待度が高い展示なだけに、土日の昼間や会期の終わりはそこそこ混みそうです。

 

撮影できるスポット

東京都美術館恒例、出口手前に記念撮影スポットがあります。

 

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感想

クリムト家を襲う悲劇。そりゃクリムトも死を考えざるを得ないでしょう。

展示会第1章はクリムト家の話。

 

クリムト家は長男クリムトと2人の弟、姉に3人の妹、父母の9人家族なのですが、

 

父=クリムト30歳の時死去。

妹アンナ、弟エルンスト=若くして死去。

母、姉クララ=鬱病。

 

という悲劇の家系だと知りました。

クリムトは死をテーマにした作品が多いですが、世紀末の悲観的な空気に加えて、上の家庭事情も作風に影響していることは間違いないですね。

 

さらに異常に女性の身体に興味があり、人気絶頂期には15人のモデルが寝泊まりし、少なくとも14人の非嫡出子(結婚してないけどできた子供)がいたという事実。羨ましいようなそうでもないような。

 

男は死に近づくほど子孫を残さなきゃ!という本能があります。にしても14人て。ものすごいエネルギー。

クリムトは常に死を意識していたことがわかります。

 

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グスタフ・クリムト『へレーネ・クリムトの肖像』1898年 ベルン美術館蔵 図録を撮影

 

この章で印象的だったのが、弟エルンストの娘へレーネ6歳の肖像。

クリムトの肖像画は全般的にそうですが、顔や手足は精密に描いてても、服や背景はスケッチレベルや漫画風のタッチだったり、立体感がない模様だったりしますね。

 

古典絵画では光(明と暗)、印象派では色(前進色と後退色)による対比表現がされてきたのですが、

2次元と3次元の組み合わせという対比表現がクリムト作品のキーポイントですね。

さらに絵の具の質感とその他の材料の質感の対比も重要とわかりました。

そちらはあとで説明します。

 

クリムト作品の源泉

クリムトは美術学校を卒業後、同級生フランツ・マッチュと弟エルンストの3人で劇場装飾作製会社を設立します。

 

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グスタフ・クリムト『カールスバート市立劇場の緞帳のためのデザイン』1884/85年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影

 

劇場の幕に描かれる絵とか建築装飾とかを手がけてました。クリムトは当然技術レベルが高いのですが、他の二人も相当の腕。

 

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エルンスト・クリムト『フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ』1890年頃 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影

 

エルンストが病で亡くなると、会社も解消されクリムトとマッチュは別の道を辿ることになります。

 

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フランツ・マッチュ『女神(ミューズ)とチェスするレオナルド・ダ・ヴィンチ』1889年 中環美術館(台湾)蔵 図録を撮影

 

マッチュの絵は背景が二次元的ですね。絵画に空間があるよりない方が建築物に合うからこういう表現なんです。建築物自体が3次元ですからね。壁にかけるのとは訳が違います。

 

クリムトのその後の作風の基礎も会社時代に築かれました。

 

日本大好きのクリムト。「黄金様式」へ。

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グスタフ・クリムト『女ともだちⅠ(姉妹たち)』1907年 クリムト財団蔵 図録を撮影

なんだかボナールの作風にそっくり。掛け軸風の極端に細長いサイズですし。

 

ボナールも大の日本好きでしたね。この頃のヨーロッパの画家はゴッホもそうですけど、例外なくどの画家も日本画に影響を受けてます。

 

受けた影響をどう消化するかは個々で違ってるのが面白いです。ボナールとクリムトは作風が近いですが、ボナールはあくまで絵の具オンリーの表現。

 

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グスタフ・クリムト『ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)』1899年 オーストリア演劇博物館蔵 図録を撮影

 

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グスタフ・クリムト『ユディトⅠ』1901年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影

 

対してクリムトは他の素材を用いました。

日本画は琳派から取り入れた金箔。

金箔を使った黄金様式の最初期作がこの2つです。どちらも絵も迫力がありますが額縁の質感がすごい。ぜひ実物を見てください。

 

黄金のドレスというのはリアルでは無理ですよね。これは2次元だからこそ表現できます。

 

金箔以外で気になったのは、『ユディトⅠ』ユディトの顔。

敵軍の首を討ち取った寡婦はちょっと上目遣いで挑発的な顔です。

クリムト作品に上目遣いは頻出します。まあ…その角度が大好きなんでしょうね。笑

 

傑作『ベートーヴェン・フレーズ』

フレーズとは建築のことでこの作品も装飾芸術になります。

しかし建築ではなく当初は展覧会に出品の目的で作られました。

 

なぜこんな長い作品を作ったのか。

見てると絵巻物を眺めてるような気がしました。

つまりクリムトの絵巻物オマージュ作品じゃないかなと。

 

実際左の壁からストーリーが進みます。

  

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グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ(部分)』1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影

 

甲冑の男が悪を倒そうと立ち上がる。

甲冑の金や、剣の柄に組み込まれた鉱石が見事!!

 

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グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ(部分)』1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 図録を撮影

 

欲の権化たち。

 

最後は歓喜の歌と接吻。

 

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グスタフ・クリムト『ベートーヴェン・フリーズ(部分)』1984年(オリジナルは1901-02年) ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 チラシを撮影

現代でも十分通用するようなグラフィックデザインがすんばらしい。

こういう漫画のイラストがありそうですよね。

 

最後の接吻の部分ですが、既視感がありました。ムンクです。

 

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『月明かり、浜辺の接吻』オスロ市立ムンク美術館蔵 クリアファイルを撮影・切り抜き

ムンクは時間を表現した結果、2人の顔が溶けて一体化してしまったという自説を過去に書きました。もはや口が見えません。

 

※過去の展示の感想です→ムンク展の感想@東京都美術館 - まあるい頭をしかくくするブログ

 

対してクリムトは回した腕で隠れちゃって顔がよく見えません。

隠す。これは意図的ですね。

想像力がかき立たせられるんですよね。

散々裸を描いておいて。対比表現も狙ったのでは?

 

クリムトが持っていた喜多川歌麿の春画で、顔同士をくっつけた結果、顔のパーツが描かれない絵がありました。おそらくその絵を参考にしたのかと思います。

 

接吻に関して、ムンクは純粋に絵画表現を工夫し、クリムトは絵画に想像という文学表現を入れたという違いがあるのかなーと思いました。

 

わかりやすい風景画・人物画も描いてる 

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グスタフ・クリムト『家畜小屋の雌牛』1899年 レントス美術館蔵 図録を撮影

 

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グスタフ・クリムト『丘の見える庭の風景』1916年頃 ツーク美術館蔵 図録を撮影

 

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グスタフ・クリムト『オイゲニア・プリマフェージの肖像』1913-14年 豊田市美術館蔵 図録を撮影

 

このあたりの風景画、人物画は印象派の要素をうまく取り入れたいい例です。

とても分かりやすく素晴らしいけれども、黄金様式ほどの個性が見られませんね。

 

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グスタフ・クリムト『女の三世代』1905年 ローマ国立近代美術館蔵 図録を撮影

やはりクリムトはいろんな素材を使ってこそです。

これなんかムンクぽく、三世代を同じ画面に描いて時間を表現してます。

銀箔を使ったとか。後に酸化で黒ずみ、大部分をブラチナ箔に変えてます。

そういう発想は、まるで技術者ですね。

 

気に入ってるのは母親の首の角度。

この角度、クリムトの有名作『接吻』にもあった。

 

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グスタフ・クリムト『接吻』1908年 ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵 wikipediaより

※本展には展示されていません!!

この時代にここまで2次元表現を追求した画家はいないのでは?

今生きてたら確実にイラストレーターか漫画家になってそうですね。

 

貴重なクリムト展をお見逃しなく!

クリムトをここまで知る機会はなかったので嬉しい展示です!

特にベートーヴェン・フレーズのような隠れた傑作が見られてよかった!

まだまだ美術史には眠ってる良作がありそうですね。

 

それと、新美でやってるウィーン・モダン展も行きたくなります。

 

www.nact.jp

 

行ったら感想書くのでそれも読んでみてくださいね!

それでは!

【追記】書きました! 

www.maru-shikaku.net